日本人の「聖地」になったイギリスの宿『フォスファームハウス』 30年来の日本との縁

オーナーのクーパー氏(左)(Caron Cooper/Fosse Farmhouse)

 イギリス南部、ウィルトシャー州に、客室わずか2室の小さな宿がある。「フォスファームハウス」と名付けられたこの施設は、部屋と朝食を用意してくれるいわゆるB&B(ベッド・アンド・ブレックファースト)だ。日本のアニメ『きんいろモザイク』に登場したことなどで人気に火が付き、日本からの旅行者が絶えない。60歳になる謙虚な女性オーナーのキャロン・クーパー氏が切り盛りするこの宿には、イギリスの田舎のゆったりとした時間が流れている。

◆『きんいろモザイク』に登場で熱狂的人気
 フォスファームハウスをモデルにしたアニメとは、5人の少女たちの日常生活を描いたコメディタッチの作品『きんいろモザイク』だ。イギリスでのホーム・ステイを終えて日本に帰った忍(しのぶ)の元を、滞在中に知り合った現地の少女アリスが訪れる。忍の友人たちも含めた日常生活が楽しく描かれた作品になっている。4コマ漫画をテレビアニメ化したもので、2016年には劇場版が公開された。

                                                                                                                 

 作中でアリスの家のモデルとして使われたのが、イギリスの片田舎にあるフォスファームハウスだ。歴史を感じさせるこのレンガ造りの小さな宿は、手入れの行き届いたイングリッシュ・ガーデンが美しい。英タイムズ紙では、アニメが細部までこのB&Bを再現していると強調している。テーブルクロスから、ドア・ストップに使っている小さなクマの置物まで、アニメの世界の中では驚くほど忠実に現実の宿が再現されている。細部まで作品と同じ世界を楽しめるこの場所は、ファンにとっての「聖地」として喜ばれている。

フォスファームハウス外観(Caron Cooper/Fosse Farmhouse)

フォスファームハウスをモデルにした『きんいろモザイク』中の建物(Yui Hara / Kiniro Mosaic)

◆トントン拍子で有名に
 フォスファームハウスは、実は以前から日本と縁があった。デイリー・メール紙は、およそ30年にわたる歴史を紐解いている。1986年、オーナーのクーパー氏は27歳の若さで建物を購入して移住した。当初B&Bの開業は念頭になかったが、リノベーションのコストが予想以上にかさんだため、一部を宿として提供することを決意したという。

 3年後、ある日本人カップルとの出会いが彼女の運命を動かす。英国様式のB&Bを開業したいと考えていたこのカップルに、クーパー氏は戸惑いながらも丁寧にアドバイスをした。カップルは彼女のB&Bをモデルにした宿を日本の長野県に開業し、人気を集める。それにつれてクーパー氏の宿にも、日本から旅行者が訪れるようになった。以降はイギリスの観光キャンペーンでも大きく取り上げられ、日本の皇族とも英国式ティーパーティーの席を共にするなど、あれよあれよという間に知名度を上げていった。

 BBCによると、前述の日本人カップルは典型的なイギリスの風景に心酔し、「まるで『不思議の国のアリス』のトンネルに落ちたみたい」だったと滞在当時を振り返っている。作中で宿をモデルとした家に住んでいた少女の名といい、アリスとは不思議な縁があるようだ。イギリスの片田舎にオープンしたはずの宿が日本で有名になっていく事態にクーパー氏は、「『不思議の国のアリス』のように、どんどん不思議になっていく」と、予想外の展開を楽しんでいる様子だ。

キャロン・クーパー氏(Caron Cooper/Fosse Farmhouse)

 クーパー氏は2016年には映画版のプレミア上映にあたり来日し、著名声優陣とともにレッドカーペットを歩いている。クーパー氏はタイムズ紙の記事の中で、「『私のことは誰も知らないだろう』と思っていましたが、知っていました。大勢のファンに声をかけられ、サインを求められたのです」と忘れられない1日を振り返る。

◆日本からのファンが絶えない
 アニメ放送は2015年に終了しているが、現在も日本から「聖地巡礼」に訪れる旅行者が後を絶たない。旅行情報サイト『トリップ・アドバイザー』には、B&Bを訪れた多くの日本人旅行者のコメントが集まっている。フレンドリーなオーナーと心地よい空間が良かったという感想や、イギリスの田舎暮らしを体験できたという声などが寄せられており、評判は上々だ。

パインルーム、『きんいろモザイク』では忍の部屋(Caron Cooper/Fosse Farmhouse)

 タイムズ紙によると、クーパー氏はアニメにも登場する自慢のクラシック・カーで観光案内をすることもあるとのことで、ファンは作品そのままの世界を楽しんでいる。作中、イギリスに慣れない忍は靴のまま宿に入ることを躊躇するが、このくだりはいまだに多くの訪問者が真似しているという。

 宿の日本語で書かれたウェブサイトによると、宿泊は朝食付きで100ポンド(約1万5000円)前後となっている。心優しいオーナーとの触れ合いと、アニメの世界観を味わいたい旅行者に人気のようだ。

Text by 青葉やまと

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