『ブラックパンサー』レビュー ついに現れた映画史に残る金字塔

Matt Kennedy / Marvel Studios-Disney via AP

 マーベル・シネマティック・ユニバースと呼ばれる世界はおそらく宇宙のように広大で、銀河に点在する惑星にまたがるが、ライアン・クーグラー監督による地球を舞台にした『ブラックパンサー』は刺激的で魅力的な、まったく異色の作品だ。

 これまでに製作された一連のマーベル映画に食傷気味の人は、クーグラー監督の内容豊かな本作に混乱するだろう。退屈な特殊効果の寄せ集めになりがちなスーパーヒーロー映画が、こんなに目も眩むほど鮮やかになりうるのか?現代コミック原作の大作映画に現実の文化を取り入れてヒットするのか?

 ほとんどのマーベル映画に中身がないのに対し、『ブラックパンサー』では紛れもない現実の利害関係が描かれる。巨額の予算を投じた真摯な試みである黒人のスーパーヒーロー映画『ブラックパンサー』は、間違いなく満を持して現れた映画史に残る金字塔だ。しかし、純粋に見事な大作映画でもある。

 おなじみのマーベル節は本作でも健在だ。『ロッキー』シリーズのスピンオフで衝撃的な傑作『クリード チャンプを継ぐ男』を監督したときと同様、クーグラー監督はこのジャンルを作り変えることなく、写実的な人物描写と見事な筋肉を結び付ける稀有な才能と新しい視点をもって衝撃を与えた。

「おまえの力を見せてやれ(Tell them who you are)」という激励が、アフリカのワカンダ王国の王子で本作の主人公ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)に飛ぶ。しかし、その言葉は、大画面でアフリカ系アメリカ人のアイデンティティを肯定する象徴的な映画の、重要なスローガンでもある。『ブラックパンサー』は、マーベルの、そしてハリウッドの世界で描かれることのなかったすべてを象徴している。

 映画は、西側諸国が「第三世界」と嘲るアフリカの広大な国ワカンダの説明で始まる。その隠された実態は、数千年前にワカンダの山奥に墜落した隕石から採取される特殊金属ヴィブラニウムの力によってひそかに成長を遂げた輝かしい科学技術先進国だ。ヴィブラニウムはティ・チャラがブラックパンサーとして着用するスーツの材料で、その力は厳重に警備されている。1992年、カリフォルニア州オークランドで、ひとりのワカンダ人が苦境にあえぐアフリカ系アメリカ人に力を与えるためにヴィブラニウムを密輸入しようとして失敗する回想シーンが挿入される。

 ワカンダ国王が崩御し、王位継承のために帰国するティ・チャラ。しかし、独自の特色と衣装を持つワカンダの5つの部族の間に不協和音が生じており、中でも、ボーダー族のウカビ(ダニエル・カルーヤ)は、歴史的に孤立主義を貫いてきたワカンダに国外からの支援と難民を受け入れてほしいと考えている。

 この問題は、謎の亡命者エリック・”キルモンガー”・スティーヴンス(マイケル・B・ジョーダン)の出現により表面化する。キルモンガーは、世界中で黒人のパワーバランスを取り戻すためヴィブラニウムの力を手にしたいと熱望する元アメリカの秘密工作員だ。「世界はふたたびゼロから始まる。今度は俺たちが支配するんだ」と映画のクライマックスで彼は宣言する。

Matt Kennedy / Disney / Marvel Studios via AP

 しかし、密輸武器商人のユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)率いる犯罪者集団と組んでティ・チャラの破滅を目論むため、その目的は当初明かされていない。本質的には戦略家であるブラックパンサー(ボーズマン)は、ワカンダの女性だけで編成された特殊部隊ドーラ・ミラージュの隊員ナキア(ルピタ・ニョンゴ)、ドーラ・ミラージュの隊長オコエ(ダナイ・グリラ)、妹のシュリ(映画のコミカルな側面を担うレティーシャ・ライトが好演)という3人のパワフルな女性たちに事実上常に守られている。

 お約束の特殊効果によるアクションシーンやボンド映画を彷彿させる韓国のカジノも登場する。しかし、『ブラックパンサー』の核にあるのは、開拓者でごった返す伝説の王国におけるアフリカン・ディアスポラの派閥とワカンダ人を「未開人」と罵る人種差別主義者の対立だ。タイムリーなテーマを描いているだけでなく、国の遺産と運命に誠実に向き合っているため、本作は力強い神話となった。

 衣装デザイン担当のルース・E・カーターによる伝統と未来が融合した衣装と宝飾品は、うっとりするほどきめ細やかだ。ティ・チャラが祖先の墓参りをするシーンの神々しさが、ピンク色の空の下に広がるたそがれ時の大平原と樹の上にいるパンサーの群れの光る目に見事に表現されている。そしてなによりも、ジョーダン演じる心に傷を負った非情な戦士、キルモンガーが素晴らしく繊細だ。彼はいわゆる「悪役」なので、その手段は極端だがその信念はまっとうだ。

 スタン・リーとジャック・カービーのコンビが生んだブラックパンサーの初登場は1966年。以来、映画製作者のレジナルド・ハドリン、作家のタナハシ・コーツ、俳優のウェズリー・スナイプスなど多くの人間が創作意欲をかき立てられ、長年にわたり映画化が試みられてきた(皮肉にも、マーベル・コミック原作の映画がヒットするきっかけを作ったのは、スナイプスが主演した1998年のスーパーヒーロー映画『ブレイド』だった)。

『ブラックパンサー』の映画化にかくも長い歳月を要したことを嘆くのは容易い。だが、今まで待った甲斐があった。

 配給はウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ。「暴力を伴うアクションシーンが長く、わずかに下品なジェスチャーが認められる」ためアメリカ映画協会(MPAA)がPG-13に指定。上映時間は2時間14分。採点は星4つ中3つ半。

By JAKE COYLE, AP Film Writer
Translated by Naoko Nozawa

Text by AP