女優たちが祭典で黒をまとった理由 アメリカで盛り上がるムーブメント

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 ハリウッドの授賞式ともなれば、普段は高級ブランドによる色とりどりのきらびやかなドレスを身にまとった女優たちの姿が話題となる。しかし、1月6日に行われた今年のゴールデングローブ賞授賞式ではガラリと雰囲気が違った。さまざまな黒のドレスを着た女優たち(と大多数の男優たち)が次から次へと現れ、レッドカーペットを歩くその光景は一種異様でもあった。

 これはもちろん偶然ではなく、今年の同賞授賞式では出席者の間で「黒を着て出席すること」という決まりごとが出回っていたという。リース・ウィザースプーン、ハル・ベリー、ジェニファー・アニストン、ナタリー・ポートマン、ニコール・キッドマンなど、ハリウッドの「Aリスター」と呼ばれる一流女優たちももちろん黒を着て登場した。

◆女優たちが黒を着た理由とは
 CNNの報道によると、女優たちが黒を着た理由は、「ハリウッドにおける性的搾取行為と差別」に団結して抗議するためだという。授賞式の前に数々の女優たちが「#WhyWeWearBlack」というハッシュタグを使って「私が黒を着る理由」を表現した。

 そのうちの1人、アフリカ系アメリカ人女優のケリー・ワシントンはインスタグラムに、「#TIMESUPパワーの不公平(に終わりを)。#WhyWeWearBlack(なぜ私たちが黒を着るか)? それは私たちがあなたの味方だから」と投稿。

 また女優で活動家でもあるアリッサ・ミラノは、「私が経験したセクシャル・ハラスメントや性的暴行を、私の娘が経験することのないように毎日祈っている。私は娘のベラのために黒を着る」とツイッターに投稿した。

 一見華やかに見えるハリウッドにも、セクハラや性的暴行、賃金格差、人種差別などの暗い闇が存在している。中でもセクハラや性的暴行など、主に女優たちに対する性的搾取はこれまで長い間「暗黙の了解」的に横行していたようだ。

 ハリウッドには「キャスティング・カウチ(Casting Couch)」というフレーズがある。駆け出しの若手女優が映画やドラマで役を得るため、キャスティングの際にプロデューサーに身を投げ出す……という構図だ。

 そんなハリウッドの黒歴史が昨年10月5日付のニューヨーク・タイムス紙の報道で明るみに出た。そして、大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏のセクハラや性的暴行被害にあったという女優たちが次々に名乗り出たのである。

◆男性優位社会からの脱却を求めるアメリカの女性たち
 2016年のアメリカ大統領選では、ドナルド・トランプ氏からセクハラや性的暴行を受けたと名乗り出た女性たちが続々と現れた。しかし、そんな女性たちの声は政治的圧力でもみ消されようとしている感がある。

 かたや長年自分の地位を利用して女性たちを搾取し続けていたハーヴェイ・ワインスタイン氏の場合、被害を受けた女優たちが「一揆」のように次々と声を上げ始めると、これまで黙認されてきた彼の行動を弁護しようとする人はほとんどいなかった。ワインスタイン氏はその後すぐハリウッドを追われ、数々の容疑で逮捕されるのも時間の問題と思われている。

 ハーヴェイ・ワインスタイン氏のスキャンダルはビジネス界、そして政界にも飛び火し、共和・民主両党から議員が辞任する事態に発展した。またゴールデングローブ賞授賞式ではエンターテインメント業界における男女の賃金格差について批判する女優もみられた。もちろん、賃金格差についてはエンターテインメント業界に限った問題ではない。

 昨年のセクハラスキャンダルと「#MeToo」、今年の「#WhyWeWearBlack」、「#TIMESUP」と、アメリカの女性たちが男性優位社会からの脱却を求めるムーブメントは今後さらにエスカレートするはずだ。授賞式で女優たちが徒党を組んだからといって世の中がすぐに変わるわけではないが、このムーブメントが世界中で性的被害や差別を受ける人々の励み、そして立ち上がるパワーとなることは間違いないだろう。

Text by 川島 実佳