ワインは本当に心臓に良いのか? 研究者からのアドバイス

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著:Adrian Baranchukクイーンズ大学 Professor of Medicine)、Bryce Alexanderクイーンズ大学 Medical Student)、Sohaib Haseebクイーンズ大学 Student)

 週末が近づくと、人々はワインのボトルを開ける。バーやレストランで。あるいは自宅で。くつろぎの時の始まりを告げる、世界のどこでも見られる風景だ。

 人とワインの歴史は長い。これまでに知られた最古のワイン工房は、紀元前4100年にまでさかのぼる。ここは2010年に、アルメニアの洞窟で考古学者によって発見された。古代エジプト人は儀式にワインを用いた。フェニキア人はワイン貿易を行った。またワインは、ギリシア神話のディオニソスとローマの酒神バッカスによって讃えられた。2014年までには、人類は世界全体で毎年240億リットル以上のワインを消費してきた。また最近では、2017年の西ヨーロッパ地域の異常気象によって生産が大きく減退したことから、もともと需要の多いワインの価格は今後上昇すると懸念されている。

                                                                                                                 

 なぜワインはそこまで人気があるのだろう? 味と、人々をリラックスさせる効果は言うまでもない。しかしそれ以外にも、ワインが「健康的なアルコール飲料」という定評を得ているという事実がある。過去に行われた研究の中では、フランスにおける赤ワイン飲酒と心臓病発症率低下の関連が明らかにされている。

 しかし一方で、ワインの飲酒が肝硬変心臓発作での急死アルコール性心筋症不整脈などの深刻な健康リスクを高めることも知られている。過度のアルコール、度を過ぎた慢性的飲酒は、疾病増加につながる世界的な危険因子だ。

 では、一般の飲酒家は何を信じれば良いのだろうか? どのくらいの量のワインなら安全なのだろう?私たちは医学研究者として、最近、ワインのあらゆる側面に関する詳細な分析結果を発表した。その中では、ワインを飲むことのリスクと利益の分析、他のアルコール飲料との比較や、広く知られたワインの健康上の利点に関する議論が行われた。

◆ワインと心臓疾患
 少~中量の飲酒とIHD(虚血性心疾患)の発生率低下、それに伴う死亡率低下との関連が最初に報告されたのは、1970年代のことだ。それ以来、ワインに関する近代的・科学的な知見は飛躍的に増大した。IHDは、心臓への血流減少を特徴とする疾患群であり、世界各地で死因の上位を占めている。

 同様の結果が、ワイン、特に赤ワインについて別個に報告された。最初にこれを観察したのは、ルノー氏とデ・ロルジュリル氏。彼らはこの研究によって一躍有名になった。飽和脂肪が豊富な食生活を送る人々の中でも、赤ワイン飲酒者においてはIHD関連死亡率のリスクが比較的低いというこの現象は、のちに「フレンチパラドックス」と呼ばれるようになった。

 それでは、やはり赤ワインは心臓に良いのだろうか? これは難しい質問だ。最終的な答えはまだ出ていない。このことを説明するには、飲酒パターン、ライフスタイル特性、食事の中身など、複数の要素を考慮する必要がある。そのどれもが、個々人の心臓周囲の血管の健康に影響をおよぼす重要ファクターだ。

 ひとつの説としてよく引き合いに出されるのが、「地中海食」だ。この食事様式は、適度な赤ワインの摂取に加え、植物ベースの食物を多く摂取するのが特徴で、従来から「体に良い」と学会からお墨付きを与えられてきた

 地中海食においては、飽和脂肪の低摂取が健康の元とされている。またそれとは別に、この食事様式が好影響を与える要因として挙げられるのは、アルファ・リノール酸(必須脂肪酸)と赤ワインだろう。この点は多くの研究によって裏付けられている。

◆コレステロール、炎症、血圧
 赤ワインには500種類以上の化学物質が含まれている。その一つが、ポリフェノールと呼ばれる物質群だ。赤ワインには抗酸化作用と抗炎症作用があることがよく知られているが、ポリフェノールはこの原因物質として広く研究されてきた。

 アルコールとポリフェノールの健康へのポジティブな影響は、いくつもあると考えられる。まず1つは、「HDL-コレステロール」、すなわち善玉コレストロールの増加。もうひとつは、「LDL-オキシデーション」、すなわち悪玉コレステロールの減少だ。また、炎症を緩和する効果やインスリン感受性を高める効果もあるほか、血圧を下げる効果もあると考えられている。

 ビールや蒸留酒とワインとの比較に関しては、一貫した結果が出ていない。IHDと死亡率低下に対するワインの優位性を報告する研究がある一方、ビールや蒸留酒の方が優位だと報告するものもある。また、両者に違いはないと示唆する研究報告もある。このことから、アルコールとポリフェノールは、それ以外のライフスタイル要因とともに、フレンチパラドックスの原因を作る要素であることが示唆される。

 ワインやアルコール摂取の効用は確かにあるのだが、飲酒が心房細動の潜在的な危険因子であることもまた事実だ。心房細動は、最も一般的な不整脈である。

◆どのくらいが適量か?
 多くの研究では、過度のワイン摂取によって有害作用が増大するが、少~中量までの摂取では、IHDとその死亡リスクは低下するとされている。

 この結果をふまえて、様々な行政機関が酒類の消費に関するガイドラインを定めてきた。一定の類似したパターンはあるが、これらガイドラインの内容は、国や作成機関によって大きく異なっている。それぞれのガイドラインの中で使用される「1標準ドリンク」の定義にも大きなバラつきがあり、各国間で一致していない。これは大きな混乱のもとだ。アルコール摂取に関するガイドラインを読み解く際には、読者はこの点に留意する必要がある。

 WHO(世界保健機関)は、低リスクのアルコール摂取量を「1日2標準ドリンクまで」とし、週に2日以上の禁酒日を設定することを推奨している。この基準では、1標準ドリンクを10グラムの純エタノールと定義している。

 アメリカ心臓協会では、適度なアルコール摂取量は、男性は1日当たり1〜2ドリンク以下、女性は1日1ドリンク以下としている。ここでの1ドリンクは、ビールであれば12オンス(約355ml)、ワインなら4オンス(約118ml)、40%の蒸留酒なら1.5オンス(約44ml)、50%の蒸留酒なら1オンス(約30ml)となっている。

 米国農務省が定めた2015年~2020年における「米国人のための食生活指針」も、アルコール摂取の推奨値を定めている。ここでは、男性は1日2ドリンク、女性は最大2ドリンクが適量とされる。また1回の標準ドリンクは、14グラムの純エタノールと定義されている。

 CAMH(カナダ中毒・精神保健センター)のガイドラインでも、控えめなアルコール摂取を推奨している。ここでは、男性は1日3ドリンク、女性は2ドリンクまで。1標準ドリンクは、アルコール度数5%のビールであれば12オンス(約355ml)、12%のワインであれば5オンス(約148ml)、40%の蒸留酒なら1.5オンス(約44ml)と定義している。

◆今後の研究課題
 アルコール摂取と心臓の健康に関する研究データは、少~中量の定期的なアルコール摂取ならば健康に良いだろう、と示唆している。しかし、因果関係を特定するために「メンデル無差異化解析」と呼ばれる数学モデルを適用した場合、その結果は複雑だ。

 たしかに一部研究では、少~中量の飲酒が健康に良いという結論が出た。だが、また別の研究では、長期のアルコール摂取は心臓に有害という結果も出ている。

 医師の立場としてアドバイスするのであれば、食事と運動と喫煙に関して患者に何を勧めるかは、とてもはっきりしている。つまり、アルコールとワインに関する錯綜する調査結果を考慮すると、「それらの消費はあまり推奨できない」ということになる。

 ワイン愛好家の立場から見た場合でも、ワインと健康に関する決定的な答えはまだない。しかしながら、この分野の将来的な研究ポテンシャルは非常に大きいと言える。

 いずれにせよ、すべてのガイドラインに書かれているように、今夜あなたが赤ワインをグラスに1杯か2杯飲む程度であれば、健康への問題は特にないだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by THE CONVERSATION

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