匂いで太る?嗅覚を失うことによる細胞レベルのダイエット効果とは

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 肥満になるのは何も食べる量が多いということだけが原因ではない。最新の研究によると料理の匂いを嗅ぐという行為も実は肥満と関係しているのだという。嗅覚を失わせることにより、同じ量を食べたとしても体重に大きな差が出るようだ。

◆嗅覚を失ったネズミは痩せる
 嗅覚を失った肥満気味のネズミは痩せていくという奇妙な現象がアメリカのカリフォルニア大学バークレー校の研究で観察された。驚くべきことに、同大学の研究でこのようなスリムとなった嗅覚のないネズミが食べた量は、嗅覚のあるネズミが通常時の2倍も太ってしまう量と同じなのだという。さらに嗅覚を非常に鋭くしたネズミは高カロリーの食事をとると、普通のネズミより太りやすいということも発見された。

◆嗅覚を失ったネズミの体の中で何が起こっているのか
 どうやら嗅覚を失ったネズミは、その脂肪細胞に劇的な変化が見られるようだ。研究チームは遺伝子療法により、ネズミの鼻にある嗅覚ニューロンを破壊する一方で、幹細胞は保存した。これによりネズミは嗅覚を一時的に3週間程失うが、後に嗅覚ニューロンが再生するようになる。

 注目するべきことに、実験で一時的に嗅覚を失ったネズミの脂肪細胞の色や形が変化したのである。まずネズミのベージュ色の脂肪細胞が茶色の脂肪細胞へと変化した。このベージュ色の脂肪細胞は、我々の太ももや胴体に集まる皮下脂肪貯蔵細胞で肥満の原因となるものだが、対照的に茶色の脂肪細胞は熱を生むために脂肪酸を燃焼させるものである。

 またネズミの白色の脂肪細胞(これは我々の内蔵に集まる不健康の要因となる貯蔵細胞である)は、一時的に嗅覚を失うことでサイズを大きく縮めたのである。

 しかしこの方法には問題点もある。嗅覚を失わせると、同時に交感神経からのストレス反応によりノルアドレナリンの水準が大幅に上昇してしまい、心臓発作を起こしてしまう可能性があるのだ。

◆人間にも適用できるのか?
 人間にネズミに適用したような治療法を用いていいかには疑問がつきまとうだろう。しかし、研究チームは、胃の縫い閉めや肥満手術を検討するほどの病的な肥満に苦しむものにとっては、有力な選択肢になると述べている。

 また研究チームは、「嗅覚ニューロンは食の楽しみのために非常に重要なものであり、もし我々がこれを調節する方法を見つけたら、人々の食への渇望を阻止することもでき、彼らの食習慣も管理できるであろう」とも言及している。

 我々は匂いで食事を楽しむことも多い。そのため嗅覚を司る神経を破壊してまで、無臭の食事を健康と引き換えにすることに抵抗感を示す人は多いだろう。しかし世の中には切実に痩せたいと思っている人も多く、食の楽しみと引き換えにこの方法を希望する人がいても不思議ではない。嗅覚制限が肥満解消や食習慣管理の方法として利用される日は、そう遠くないのかもしれない。

Text by Yota Ozawa