ヒットの秘訣はノスタルジーとひと工夫 大人向けハッピーセット、折りたたみ式スマホ…

McDonald's via AP

 ノスタルジーが売れる。このブームを受け、マーケターは昔懐かしのブランドを起用している。センチメンタルな気分に浸れるとあれば、消費者の財布の紐が緩むと踏んでのことだ。

 そのような古き良きアイテムが今も市場に飛び交っているが、だんだんと工夫を凝らしたものになりつつある。誰もがお世話になったお菓子やエンタメ、テクノロジーの復刻版が続々と売り出されているが、少し手が加えられ、当時と変わらぬ懐かしさを残しながら今風の趣を併せ持つようになっている。

 過去を懐かしみたい消費者を取り込むと同時に、新たにひと工夫加えることで、新世代の消費者も獲得できるという理解が、すでに各社に広がっているのだ。

 コンサルティング会社のグローバルデータでマネージングディレクターを務めるネイル・サンダース氏は「Z世代や、若いミレニアル世代といった若年層の消費者は、そのようなブームやトレンドが最初に流行したときを直に体験していません。そのためもっと今どきの見方をしていて、そういったアイテムに対する関係性が違ってくるのです。彼らの心をつかむには、商品を今っぽくする工夫が必要です。若い消費者は珍しいものに引かれがちで、シンプルなノスタルジーよりも新たな体験を欲しがる傾向がありますから」と話す。

 フィンテック企業のクラーナによると、何の手も加えていないものも大型アップデートを行ったものも含めた「ヴィンテージテクノロジー」の売上高が、ここ何年かで急上昇している。たとえば2022年2月の有線ヘッドフォンの売上高は、前年比で300%以上の増加を記録した。折りたたみ式のスマホについては、8月の売上高が80%超増加したという。

 ここからは、実際にヒットした懐かしアイテムを見てみよう。

◆大人も嬉しいハッピーセット
 食卓に置かれたハッピーセットを前に、まずはナゲットか、それともおもちゃかと悩んだ覚えはないだろうか。昨年、期間限定ではあるがこの贅沢な悩みを再び味わえることがあったのだ。マクドナルドは好調となった四半期利益について、ストリートウェアブランドのカクタス・プラント・フリー・マーケットが制作したおもちゃをつけた大人向けのハッピーセットの売上が貢献した部分もあったと報告した。こちらのハッピーセットは、デザインを一新し、カクタス・プラント・フリー・マーケットらしさ満載のスタイルに、マクドナルドを象徴するゴールデンアーチのロゴをあしらった箱に入っている。ビッグマックかチキンマックナゲット(10ピース)のいずれかを選べ、フライドポテトにドリンク、そしてコレクター心をくすぐるミニフィギュア4種(グリマス、ハンバーグラー、バーディー、カクタスバディ)のうちどれか一つがついてくる。プロモーションを始めてから4日で、おもちゃの半分が店舗から消えた。

◆ピープスの人気がピークに

Just Born Quality Confections via AP

 ピープス・マシュマロのメーカーは今年、2024年に創業70周年を迎えることを記念して、イースター用の商品をリニューアル。老舗ブランドとタッグを組み、ノスタルジーで勝負に出た。ジャスト・ボーン・クオリティ・コンフェクションは、イースターのお菓子の大定番、ピープスの改良を続けてきたが、今年は数十年の歴史を持つ2社と手を組み、ドクターペッパー・ピープスとマイク・アンド・アイク・ピープスを生み出した。トレンドを研究しているアグス・パンツォーニ氏は2022年の売上高について話すなかで「古い時代からインスピレーションを得れば、目新しさはなくても今トレンドのノスタルジックな印象が目を引きます。変わり続ける世界で、人々は日々の生活を解毒するかのように、もっと居心地のいいところへ逃げようとしているのではないでしょうか」と語る。

◆カレンダーをめくるようにスマホを開いて

Jeff Chiu / AP Photo

 ここ10年ほど姿を消していた、折りたたみ式の携帯電話が復活した。信じられないかもしれないが、スマホの発する光に疲れてしまい、テクノロジーの輪から抜け出そうとするティーンエイジャーが存在しているのだ。アマゾンやメーカーのウェブサイトを少し検索するだけでたくさんのモデルを見つけられるが、サムスンのギャラクシーZフリップ4などは、テクノロジーも大々的にアップデートされている。サムスンのモバイルエクスペリエンス事業部のトップ、TM・ロー氏のブログによると、同社は2021年、1千万台近くの折りたたみスマホを世界各国で販売。2020年から300%を超える成長を果たした。2021年にサムスンが販売した全スマホののうち、70%を折りたたみ式が占めている。

◆往年のキャラクターを今風に

Alberto Pezzali / AP Photo

 ノスタルジーは、エンタメ界においては新しい現象ではない。多数の名作が新しい世代に向けて蘇ってきた。しかし『トップガン マーヴェリック』のような映画や、映画『ベスト・キッド』シリーズをもとにした『コブラ会』などのドラマ、そして『アダムス・ファミリー』のドラマシリーズおよび映画作品をもとにした『ウェンズデー』が、大きな反響を得るようになった。『トップガン マーヴェリック』は、第95回アカデミー賞の脚色賞にノミネートされ、驚きを呼んだ。『ウェンズデー』は11月にネットフリックスで配信開始。編入先の学校で日々を送りながら謎解きに挑む10代のウェンズデー・アダムスを主人公に物語が展開するが、ニールセンのストリーミング視聴記録を更新し、セカンドシーズンに続くことが決定した。ネットフリックスが1月に発表したところによると、10~12月の新規加入者数は770万人にのぼる。グローバルデータのサンダース氏は「昔の作品を覚えている人でさえも、懐かしさと同時に目新しさや革新的な部分を求めています。つまり、少しだけ再解釈、再発明することが求められているのです」と話す。

By MICHELLE CHAPMAN AP Business Writer
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP