なぜロシアから出ない? ネスレ、ウクライナから名指し批判

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◆企業としての責任を強調 多くは語らず
 批判に対し、ネスレはロシアに残る活動から利益を得ているわけではないと反論した。同社の広報担当者は、国民にとって重要な食品を供給することは、これまで通り事業を続けるということではないとCBSに説明。さらに今回の人道的大惨事を軽減するため、ウクライナや近隣諸国でもできることは何でもやっていると話した。

 しかし広報担当者は、シュミハリ首相とシュナイダー氏とのやり取りの詳細を明らかにすることを拒否。ネスレと政府当局との会話はプライベートなものだとスイスの報道機関キーストーンSDAに述べたという。さらに、雇用者としてロシアにいる7000人以上の従業員に対する責任があるとも話し、理解を求めた。(SWI swissinfo.ch

◆ボイコットの危機 企業イメージ悪化
 シュミハリ首相のネスレ批判ツイートには6万4000件の「いいね」がついており、ソーシャルメディア上では製品ボイコットの動きが高まっている。ツイッターでは、#boycottnestleのハッシュタグが登場し、ネスレを標的にした画像が出回っている。乳児用乳製品の製造からスタートした同社の鳥の巣のロゴは、ひな鳥を育てる親鳥の愛情を表現したものだ。しかし投稿された画像のなかには、鳥がナチスの鉤十字に見立てた「Z」の腕章をつけているもの、ひな鳥や親鳥がミサイルに置き換わっているもの、社名「Nestle」の文字がナチスに似た「Naztle」に書き換えられたものなどが見られる。

 さらにウクライナのクレバ外相も議論に参入し、ロシアでのビジネス停止を拒否することで、ロシアによる欧州での侵略戦争継続を許しているとツイート。企業の評判に与える長期的ダメージは、ウクライナでのロシアの戦争犯罪の規模にも見合うと批判した。「グッドフード、グッドライフ」と書かれた普通の子供の画像と、「プーチンの戦争のスポンサー」と書かれた血まみれの子供の死体の画像を並べたミームが添えられたこのツイートには、支持を表明する多くのコメントがついている。

 イエール大学のジェフリー・ソネンフェルド教授によれば、現在でも80社ほどがロシアでの事業を継続しており、ネスレも含めコンシューマーグッズのメーカーは生活必需品の供給と現地の雇用を守るという理由で残留する傾向だという(フィナンシャル・タイムズ紙)。多国籍企業は、ロシアで事業を行いたいという希望と、自社の評判を落とし、より大きな欧米市場でのビジネスに悪影響が出る可能性とを比較検討しなければならないとAPは述べている。残るか去るか、どちらが正しい判断だったのかは、この戦争の終わり方によって決まるだろう。

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Text by 山川 真智子