変化の時代 「リーダー退任」の未来への役割 米国からの学び

Charles Krupa / AP Photo

◆主要メディアのリーダー交代も
 ビッグ・テック企業同様に、社会や世論形成に大きな影響を及ぼす米国の主要メディアカンパニーでも、トップ人事の交代が話題になっている。奇しくもジェフ・ベゾスが2013年に買収し、オーナーを務めるワシントン・ポストは、エグゼクティブ・エディターのマーチン・バロン(Martin Baron)が2月末をもって退任すると発表。ベゾスは自身のインスタグラムで彼の功績と引退をたたえ、「マージナライズされ(社会の主流から取り残され)、その声を無視されてきた人々の声に耳を傾けることはとても重要である」というバロンの言葉に同意を示した

 他方、ロサンゼルス・タイムズでは、エグゼクティブ・エディターを務めたノーマン・パールスティーン(Norman Pearlstine)が、昨年12月にシニア・アドバイザーの役職に移行したことを発表。バロンもパールスティーンともに、ベテランのジャーナリストとして活躍してきた人物で、65歳以上の白人男性だ。いずれも後任は発表されていないが、ダイヴァーシティの問題に考慮した人選が予測されている。

 人種のダイヴァーシティへの考慮は、Black Lives Matter運動の拡大以降、米国における主要ポストの人選においてさらに重要になった。Voxでは編集長兼シニアVPを務めたローレン・ウィリアムズ(Lauren Williams)が退社。業界内で数少ない黒人女性リーダーであった彼女は現在、もう一人の黒人女性とともに全米の黒人コミュニティに向けた非営利の報道機関Capital Bの立ち上げ準備中だ。彼女が抜けたあとの2つのオープン・ポジションに対するVoxの人選が注目される。また、テック系メディアWiredも現在、次なる編集長を探しているようだ。最終判断は親会社コンデナストのチーフ・コンテント・エディター、アナ・ウィンター(Anna Wintour)に委ねられているとニューヨーク・タイムズは報じている。米国版ヴォーグの編集長でもあるウィンターは昨年、ヴォーグは人種のダイヴァーシティに対する考慮にかけ、人種差別的であるという批判を浴び、一時はウィンター退任と、イギリス版ヴォーグの編集長であるガーナ系イギリス人のエドワード・エニンフル(Edward Enninful)後任の噂も流れた。噂は否定されたが、人種のダイヴァーシティに関して、引き続きウィンターは努力する必要がある。

 変化していく時代において、ビジネス界、メディア界、政界における新しいリーダーが生まれていくことは当然かつ必然だ。日本では、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森会長の問題発言を機に、そもそもなぜ彼が会長を務めているのだろうかという疑問も浮上。発言内容そのものや『老害』という差別的な言葉で形容される彼の年齢は、表層的な要素でしかない。

 たとえば、投資家・アドバイザリーなどを務めるGreat Journey LLC代表の安川新一郎は、ニューズウィーク・ジャパンのコラムで、森が会長として君臨する背景として、「森会長の昭和の政治家としての密室での利害調整能力が、この期に及んで活きているというところだろうか」と分析。「あと半年、IOCと東京都/日本政府を相手取って開催に向けた交渉ができる人間、各競技団体に押さえが効く人間が自分以外に組織委員会にいるのかという強い自負が伺える」と彼の態度や続投判断の背後にある状況を類推した。また、ジャーナリストの浜田敬子は、会議での発言や議論といった意思決定ではなく、会食政治と忖度文化を通じた排他的な意思決定プロセスが、政界、スポーツ界、ビジネス界に根強く存続しているとの問題を指摘。さらに、移民・難民など国内外の社会問題についての発信を得意とするライター・編集者の望月優大(ひろき)は、「私が森氏にやめてほしいのは、高齢であることでもなければ、高齢なのに力を持ち続けていることでもない。(中略)差別をやめるか、力を捨てるか、せめてどちらかを選んでもらいたい。自分の意思で、選べるはずだ」と発言

 彼らの分析や主張は、それぞれ異なる視点からのものだが、背景にある本質的な構造に着目し、日本の社会や組織文化における経路依存性(path dependence)からの脱出の難しさを示しているという共通点がある。「空気を読むこと」や「なんとなく(よい)」といったある種の美的感覚に基づいた日本の組織文化は、既存のリーダーが力を発揮するのには向いているが、新しいリーダーは生まれにくい。同時に新しい価値観を提示できるリーダーやチームの多様性なくして、既存の組織文化が変わることは難しいというキャッチ22的な状況もある。優秀な経営者がトップを務める日本企業ほど後継者が決まらないという分析もあるようだ。

 変化の時代において、リーダーの交代と組織経営における新陳代謝の促進がますます重要になるはずだ。その意味において、米国主要企業のトップマネジメント交代から学べることがあるかもしれない。

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Text by MAKI NAKATA

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