変化の時代 「リーダー退任」の未来への役割 米国からの学び

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 2月2日、ジェフ・ベゾスがアマゾンのCEOを退任するというニュースが発表された。ベゾスは今年の第3四半期開始時(7月)にアマゾン取締役会長職に移行し、アンディ・ジャシー(Andy Jassy)が次のCEOに就任する。米国テック大企業の創業社長の退任は、ベゾスが初めてではない。彼の退任によって、GAFAMとも呼ばれる企業群のうち創業者がCEOを務めているのはフェイスブックのみとなる。変化の時代における、リーダー退任がもたらす未来への意義とは。

◆ビッグ・テック・カンパニーの創業者退任
 2月2日、ベゾスが全社員に送ったメールによって、彼のCEO退任が報告された。ベゾスはCEOを退任するが、アマゾンの経営から身を引くわけではない。メールには、取締役会長として新製品と新規事業に注力すると書かれている。また退任後はDay 1 Fund(ホームレス家庭や貧困地域の幼稚園を支援する非営利団体に対する基金)、ベゾス地球基金(気候変動対策の100億ドル基金)、ブルー・オリジン(航空宇宙事業)、ワシントン・ポストといったアマゾン以外の活動、そしてほかに自分がパッションを持っていることにも、時間とエネルギーを使うという意向が示された。

 後任のジャシーは、アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Service:AWS)のCEO。AWSは、南アフリカ・ケープタウンで小さなチームが開発したAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)として、2005年に始まったクラウドコンピューティングサービスだ。ハーバード・ビジネス・スクール卒業直後の1997年5月、1994年7月創業のアマゾンに入社したジャシーは、AWSを立ち上げ、大きく成長させた。そして、2016年にCEOに就任。2019年の同社財務諸表によると、アマゾン事業におけるAWSの売上シェアはたったの12%であるのに対し、営業利益は全体の63%を占める92億ドルを計上している。(同社は、北米リテール、北米以外のリテール、AWSという3つの事業セグメントを持つが、北米以外のリテール事業での営業利益はマイナスである。)ジャシーは、アマゾンでの経験や実績はもちろん、その厳しいマネジメントスタイルにおいても、ベゾス同等の経営手腕が予想されている。アマゾンという組織がすぐに大きく変わることはなさそうだが、ベゾスの才能とエネルギーが、ほかのことに注力されるという意味での変化や、社会への影響力が注目される。

 ビッグ・テック・カンパニーの創業者退任の過去事例は少なからず存在するが、そのストーリーはさまざまだ。GAFAMと総称される、グーグル(現アルファベット)、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトのうち、創業者がCEOを務める企業はベゾスの退任後はフェイスブックのみとなる。1998年にラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが共同創業したグーグルは、2001年からはエリック・シュミットCEO、2011年にペイジがCEOに復帰したが、2019年末、ペイジもブリンも経営の役職からは退いた(取締役会には存続)。ペイジは空飛ぶ車の開発などに携わっているようだが、表舞台からは身を引いたようだ。一方、1975年にマイクロソフトを共同創業したビル・ゲイツは2000年にCEOを退任。妻のメリンダとともに、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団を創設。財団は、世界の公衆衛生の改善や貧困撲滅などに取り組む、世界最大の慈善基金団体とされている。ビル・ゲイツは、現在は慈善家としての国際的なプレゼンスを確立している。

 Voxは、「ビッグ・テックは創業者なくとも存続できるほどの規模に成長した(Big Tech is so big it doesn’t need its founders anymore)」と逆説めいたタイトルの記事を公開。必ずしもCEO交代がスムーズで、かつ創業者のCEO再任などなしに一度で成功するケースばかりでもない。また、昨今では、経営者は大きくなりすぎたテック企業の独占禁止法違反の問題など、いわゆる本業の経営以外のマネジメント手腕も求められるようになった。Voxはこうした背景にも触れつつ、創業者の退任は少なくとも投資判断にとってはプラスに働いているようだと示唆。マイクロソフト、アップル、グーグルともに創業者の退任後の株価が、S&P500の株価指数に比べてよりよい結果を出していたと分析している。創業CEOとしてマーク・ザッカーバーグが経営するフェイスブックも、政府の規制強化の動きに対して難しい局面に立たされている。しかし、まだ36歳のザッカーバーグはしばらくCEOを続投するだろうと見られている。

Text by MAKI NAKATA