賛否両論でもターゲットを逃さない、ナイキのマーケティングとは

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◆一線を越えた? 政治的メッセージで成功
 ナイキの「モチベーションの魔法」を使った完璧な例は、人種差別への抗議として国家斉唱の際に起立を拒否したフットボール選手、コリン・キャパニックをフィーチャーした2018年の広告「Dream Crazy」だ。そのCMでは何かの商品を宣伝しようとするのではなく、見る人の脳裏にナイキと勝利のイメージが結びついて刻まれるようにしていると『MyWallSt』は指摘する。広告には賛否があったが、結局ナイキを支持する人は多く、セールスも大幅に増加した。

 ナイキはBlack Lives Matterの抗議デモが広がるなか、今度は人種差別を変えようと呼びかける「Just Don’t Do It」というCMを公開した。ロイターは、ナイキは今年になって注目される社会的、政治的ムーブメントのサポーターとして自社をマーケティングしていると述べている。これはコロナで多くのプロスポーツが停滞した状況での賢明な生き残り策だったようで、セールスも株価も回復している。

◆デジタル化にシフト、ターゲットは若者
 経済サイト『マーケット・プレイス』は、ナイキは政治的ムーブメントを受け入れた先駆者だと述べる。しかし、ペンシルベニア大学ウォートンスクールのアメリカス・リード教授は、こういった動きは若い消費者を引きつける賢いマーケティングだがリスクがあるとしている。ニュースで放火や略奪の様子が報じられるなか活動家を支えることは、「法と秩序」のある消費者を遠ざけてしまう可能性もあるからだ。

 リード教授は、市民運動へのサポートを表明する企業には、政治的ムーブメントを支えることで離れる客があっても、残る忠実な客は十分いるという読みがあるとしている(同)。ナイキの場合は、すでに数年前から、イノベーション、スピード、顧客との直接的つながりを重視する戦略を打ち出し、オンラインや、実店舗とモバイルを連動させた販売にシフトしている。デジタルと直販が近年の成長をけん引しているため、現在の戦略について来られる若い層だけをターゲットにしていると言えそうだ。

 もっともアリゾナ大学グローバル・スポーツ研究所のケネス・シュロプシャー氏は、ムーブメントに飛び乗る企業に厳しい見方だ。ナイキも含め、大企業でも理事会の多様性は不十分だとし、自社内の人種的正義の問題にも注意した方がいいとする。消費者は危機が過ぎ去った後に、企業の有言実行を見極めようとすると述べている(同)。

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Text by 山川 真智子