なぜナイキは物議を醸す選手を広告塔にしたのか ジョーダン時代から変わったものとは

AP Photo / Nick Wass

 一足のシューズに煙草のライターで火が付けられて燃え上がる様子を撮影した動画が、シューズメーカーの発表した政治的な声明に対する抗議として、オンライン上で広くシェアされている。

 2年前、ニューバランスの広報担当の女性が、同社はドナルド・トランプ大統領の貿易政策を支持すると発表した後、同社のシューズの持ち主たちが自分のシューズに火をつけて燃やした。

 現在、ナイキの「Just Do It.」30周年記念キャンペーンにコリン・キャパニック選手が広告塔に起用されたことを理由に、ナイキの製品をずたずたに切り裂いたり、火をつけて燃やしたりする顧客が現れている。政治的志向では対極といえる立場ではあるものの、ナイキはかつてのニューバランスと同様の状況に置かれることとなった。

                                                                                                                 

 ナイキは、シューズメーカーがもはやアメリカの政治的分裂を見過ごせなくなったとし、キャパニック選手を起用したキャンペーンによって人種平等を実現するための積極的な行動を起こすことに決めた。シューズやアパレルのメーカーは、長年にわたってスポーツ界のセレブたちに関連した数十億ドルものブランドを構築してきた。しかし今は、トランプ大統領の施策をめぐる政治的、人種的、文化的な多種多様の衝突を招く、一触即発の状況下に置かれていることを悟っている。

 ナイキはこの路線を貫く最大の代表者である。最も注目すべきは、レブロン・ジェームズ選手やセリーナ・ウィリアムズ選手を起用し、警官によるアフリカ系アメリカ人男性射殺事件や黒人社会が直面している課題について、実際に声を上げて問題提起したことだ。

 2人を含むアスリートたちは、自己表現の一形態としてシューズをより一層活用している。今年初旬、ナイキはジェームズ選手のシグネチャーモデルである「EQUALITY(平等)」を発表した。このシューズのくるぶしから踵の部分にはEQUALITYという語の刺繍がある。また、ステフィン・カリー選手はバラク・オバマ元大統領をテーマとして扱ったシューズを履いていたことがある。

 近年、NBA選手たちは「安らかに眠れ、トレイボン・マーティン」や「人種差別をなくそう」などのメッセージや、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が布教を行っていたエベニザー・バプテスト教会の画像が描かれたシューズを履くようになっている。NBAが選手たちの履くシューズの種類についての規則を緩和したことにより、来シーズンはこのようなメッセージがますます一般的に見られるようになりそうだ。

 ジェームズ選手は4日、ニューヨークで開催されたナイキのファッションショーと授賞式で「私は毎日、一日中ナイキを支持している」と述べた。

 キャパニック選手は警官によるアフリカ系アメリカ人男性射殺事件に抗議するため、試合前の国歌斉唱時に起立せず、ひざまずいたままの姿勢を貫いた。NFLは同選手によるこの決断を他の選手が支持することを許可した。これに対し、トランプ大統領はNFLを激しく非難している。そして今、大統領の怒りの矛先はナイキに向けられた。同社が元サンフランシスコ・フォーティナイナーズのクオーターバックであるキャパニック選手を主たるスポークスパーソンの1人として起用したからである。

 トランプ大統領は5日、「ナイキは激しい怒りと不買運動に直面しており、もはや抹殺されかねない状況だ」とツイートした。

 スポーツアパレル企業は、長年にわたり黒人カルチャーを一部模倣しながら、エンターテイメントとカルチャーの世界の橋渡し役となってきた。Run-D.M.C.のアディダスのシューズは大ヒットした同グループのラップソング「マイアディダス」の後を追うように発売され、ナイキの「エアジョーダン」キャンペーンでは、マイケル・ジョーダン選手とスパイク・リー監督が起用されたのは記憶に新しい。こうして10億ドル規模の産業が創出された。そして、どのようにすれば、企業は時に保守的なアメリカの多数派である白人コミュニティと同様に、少数派や若年層にアピールできるのかという文化的な課題も生まれた。

 しかし、このような企業と数々のメジャーなスポーツリーグは、「共和党員もバスケットシューズを購入するから」と発言したとされる有名なジョーダン選手に象徴されるように、誤って実際の政治に足を踏み入れないよう慎重な姿勢を貫いている。ジョーダン選手をはじめとする当時の人々は、利益が見込めるシューズを履くことを良しとしていたが、現世代の選手たちは、社会的正義を推進するためのプラットフォームとして自身のスニーカーを利用している。

 そしてこのような推移に伴い、ナイキはスーパースターのアスリートたちに味方するようになった。例えそれがトランプ大統領の支持者を遠ざけ、シューズと政策を結びつかせることになろうとも、だ。

 アトランタのエモリー大学にあるマーケティング分析センターの所長、マイケル・ルイス氏は、「選手たちが使用する製品を変更しやすくするために、多くの企業は彼らと十分な話し合いと調整を行う必要性がある」と語った。

 衣料品やシューズメーカーは、常に少数派コミュニティと行ったり来たりの関係を維持してきた。黒人のアスリートたちが男女ともにスポークスパーソンを務めるようになって、ビジネスは活気づいた。しかし、企業がアフリカ系アメリカ人のトレンドを利用したのに対し、企業は黒人社会に対しどの程度財政的に投資をしたのかという点に関しては、疑念が生じることとなった。

 企業と黒人社会の関係は1980年台に始まった。ナイキ、アディダス、リーボック、そしてコンバースが黒人ファッションの中心的存在となり、アフリカ系アメリカ人の若年層がジョーダン選手や、ヒップホップ文化の急成長を生んだRun-D.M.C.などのスターたちを模倣しようとした。フットウエアは、それを履く者のステータスとストリートスタイルの象徴となった。最新のシューズを買い求める熱狂的なスニーカーコレクターが店舗の外に列を作った。

 インディアナ大学でスポーツマーケティングの教鞭をとるアントニオ・S・ウイリアムズ氏は、「企業は、黒人コミュニティの流行を利用して大金を稼いだのだから、そのコミュニティの抱く感情をよく認識する必要がある。一つや二つ事件が起きるだけで、シューズは脇に押しやられ、格好悪いと揶揄され、放置される事態となる。だから企業は、黒人コミュニティの基盤で起きている文化的交流やトレンドの方向性を非常に良く把握している」と語った。

 ニューバランスは、2016年にトランプ大統領が示したTPP協定からアメリカが離脱する意向に賛成した後、政治への関わりを遠ざけようとした。同社は公式声明を発表し、トランプ大統領の政策の下で「事態は正しい方向へ進んでいる」と述べた。トランプ大統領の政策に抗議していた人々は、この声明をトランプ大統領への支持と受け止め、ニューバランスのシューズを燃やしてその動画をネット上に投稿し始めた。少なくとも1名の白人至上主義者が、ニューバランスは「トランプ革命」のシューズだと宣言した。

 ニューバランスは即座に声明を発表し、関係者の発言は文脈や前後関係を無視して流布されていると釈明した。同社は「いかなる形であれ、偏見や憎悪を容認しない」そして「人間性、高潔さ、地域社会、そして世界中の人々が相互に尊重し合うことを信じている」と主張した。

 このニューバランスの対応とは対照的に、ナイキは今回のキャンペーンを撤回する意思はないようだ。キャパニック選手、ジェームズ選手、およびセリーナ・ウィリアムズ選手らを起用した2分間のコマーシャル映像が6日、NFLのオープン戦のハーフタイム中にオンエアされた。

 アントニオ・ウイリアムズ氏は、ナイキは、同社のスニーカーや衣服を定期的に購入するコアの消費者はおそらくミレニアル世代や少数派コミュニティの若者たちであり、すでにキャパニック選手を支持しており、少なくとも同選手がどのようなスタンスを取ろうとも気にしない人々である可能性が高いと推定しているはずだと指摘した。

 そして同氏は「ナイキは歴史的に正しいとされる側、そしてコアの消費者が正しいと認める側に立ちたいと望んでいる」と述べた。

By JESSE J. HOLLAND, Associated Press
Translated by ka28310 via Conyac

Text by AP

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