ランウェイの終焉? ポストコロナ時代を見据えるファッション業界

Photo by Vianney Le Caer / Invision / AP

 9月といえば、ファッションウィークのシーズンだ。例年であれば、ファッショニスタがメルセデスベンツを乗り回し、きらびやかなファッションショーでセレブたちと集い、深夜までパーティでシャンパンを味わっているころだ。

 しかし、今年は違う。ゴージャスなロンドンファッションウィークは大幅に縮小された。ランウェイのあるショーはわずか3つで、無論ソーシャルディスタンスを意識した内容に。そのほかには、ヴィクトリア・ベッカムやクリストファー・ケインといったデザイナーによる小規模なサロンショーや招待制の展示会が開かれる程度で、海外のバイヤーや編集者、モデルが集まる様子はない。

 大半のデザイナーは自分の商品をオンラインで公開するのみで、視聴者は自宅のソファでiPad片手にファッションショーをストリーミングするしかない。それが、新型コロナ時代のスタイル。本来、ピンヒールに包まれていたはずの足に履いているのは、スリッパだ。

 高級ブランドのバーバリーは例年、大物セレブ向けにファッションショーを開催する。レッドカーペットで彩られたショーはいつも盛況だ。それが今年は、キャットウォークなしのショーを無観客で開催し、ライブ配信を行った。9月10日、モデルたちが闊歩した舞台は、なんと森林だ。バーバリーはこうしたパフォーマンスアートとファッションが融合したショーを、オンラインゲーム向けストリーミングサービスのTwitch経由で配信し、約4万2,000人が視聴した。

 ロンドンファッションウィークを主催するブリティッシュ・ファッション・カウンシルの最高責任者、キャロライン・ラッシュ氏は次のように述べている。「今回は、本格的なファッションウィークではありません。マスのオーディエンスはいませんから。非常にプライベートなもので、スケールもデジタル向けになっています。それでも、我々がかつて暮らしてきた生活の片鱗を、少しでも取り戻すための一歩なのです。たとえそれが小さく、不確かなものだったとしても」

 新型コロナウイルスによってファッション業界は大きな打撃を受け、新規感染者数が急増するヨーロッパでは、高級なバッグやドレスへの購入意欲を持つ消費者はほとんどいない。結婚式やパーティも多くがキャンセルとなり、大部分の労働者が「ステイホーム」していることから、支出がパンデミック以前の水準に戻るには時間がかかりそうだ。アナリストの予測によると、今年は世界的に高級品の売上が20%から35%減少する恐れがあるという。

 ビジネスの仕組みをシビアに再考せざるを得なくなった、という人も多い。年2回開かれるファッションウィークの伝統的なカレンダー(毎度ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリで開催)もまた、そのあり方と「いかに最新テクノロジーを活用するか」が問われている。

 ファッション業界の華やかなイベントは、デザイナーがグローバルな小売業者や消費者とつながるために必要な鍵だ。しかし、絶え間なく開かれるファッションウィークが大量の二酸化炭素を排出し、持続不可能な過剰生産のサイクルを生み出しているという批評家もいる。

「ショーという観点だけでなく、ビジネスモデルや環境への影響についても反省のとき。リセットする時間なのです」とラッシュ氏は言う。

 新型コロナウイルス発生以前から、より多くの視聴者にアプローチしようとショーをストリーミング配信するなど、テクノロジー活用に挑んできた企業もある。業種を問わず、「パンデミック収束後に従業員はオフィスに戻るのか」と疑問視する企業は多く、ファッション業界もまた「そもそも、モデルがランウェイを闊歩する場はあるのだろうか」という問いを抱えている。

 業界で影響力を持つニュースウェブサイト『ビジネス・オブ・ファッション』の創設者であるイムラン・アメッド氏は、「対面で実施するショーの雰囲気に代わるものはないが、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の役割はますます増えると考えている」と話す。VRが没入型の3D体験を提供する一方、ARは視聴者の周囲にデジタル画像を重ねるものだ。視聴者には、モデルが自宅のリビングを歩いているように見える。

「たとえば、ARを利用して自宅でバーバリーやプラダ、ヴィトンのショーを体験し、そこに登場した商品を予約注文できるようにすれば、これはある種の好機となり得るでしょう。ファッションウィークが完全になくなるとは思いませんが、同時に、実際に見たことのない服を披露する新たな方法があるとも思います。ただ、これほど多くのショーを、多くの街で、1年のうちにこれだけの期間、開催する必要はないと思います」と、アメッド氏は語る。

 デザイナーのガレス・ピュー氏は、ここ2年ほどロンドンファッションウィークに参加していない。しかし、いまこそショーに復帰し、マルチメディアファッションショー「ザ・リコンストラクション(The Reconstruction)」を披露するエキサイティングな時期だと語る。これまで当たり前だったルールが通用しなくなっているからだ。

 ロンドンのオークションハウス、クリスティーズ(Christie’s)では、マネキンやアート写真、ドキュメンタリーを駆使して13のデザインを展示するエキシビションが開かれた。そのうちの1つは、17世紀にペストが流行した際に医師が着用した、いわゆる「ペストマスク」を思わせる長く不吉なくちばしのあるマスクが特徴で、この時世におあつらえ向きなデザインになっている。

 ピュー氏はファッションの境界に挑むことで知られている。レディー・ガガやニッキー・ミナージュなどが着用する同氏のドラマチックで彫刻的なスタイルが、気まぐれなファッション市場に迎合したことは一度もない。何年も前にランウェイを捨て、自身のクリエイティブなビジョンを芸術的なファッション映像にして人々に届けた第一人者だ。

 ピュー氏によると、このパンデミックは、前進するためにルールを変革しようとする「創造的な問題解決者」にとっての時機だという

「すでに確立された方法に疑問を呈する時期であり、それを実装することがもはや不可能であるいま、我々は新たな方法を再発明しなければなりません。みんながやっていることを、やる必要はありません。1室に400名の観客を集めて作品を見せるようなやり方でなくて良いのです」と、ピュー氏は述べている。

By SYLVIA HUI Associated Press
Translated by isshi via Conyac

Text by AP