太っているかどうかの自己認識が、収入額に影響する?

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著:Patricia Smithミシガン大学、Professor of Economics)、Jay L. Zagorskyオハイオ州立大学、Economist and Research Scientist)

 お金容姿は、世間の人々にとって主要な関心事だ。これまでの研究で、この2つの間には相関があることがわかっている。つまり、「容姿が良い人ほど稼ぎが良いのは当然」と多くの人が思い込んでいるという現象があるのだ。

 中でも体重は、その人の魅力を大きく左右する。身長と体重から算出されるBMI(ボディマス指数)と職場での成功は、実際にリンクしている。端的に言えば、痩せた人、特に痩せた女性ほど、そうでない同僚と比べて収入が多い。ただ、こういった従来研究には、「他人がこちらをどう認識するのか」という視点からしか考察していないという問題点があった。

 今回行った新研究では、私たちはその逆の視点に立った。私たち自身の、自分の身体についての自己認識(事実とずれているとしても)が、何らかの違いを生み出すのだろうか?もっとわかりやすく言えば、自分が太っていると思うか痩せていると思うかによって、その人の給料に差が出るのであろうか?

 もし仮に、自分の体重についての労働者本人の認識の差がその人の収入額を実際に左右するのだとすれば、あるいはそこから、体重差別による収入への悪影響を和らげるための良策が見つかるかもしれない。さらには、体重認識のジェンダーによる違いをより深く理解することで、今でも根強い「賃金のジェンダーギャップ」の背景について新たな知見が得られるかもしれない。

◆「人からよく見られる」ためのプレッシャー
 アメリカ人は、メイク、髪染め、その他の化粧品でもって自分の容姿を補正するのに、毎年数十億米ドルを費やしている。また、体重を減らす目的で、ダイエット、フィットネスクラブのメンバーシップ美容整形の3つに対して、合計何十億米ドルも支払っている。

 人気モデルやムービースターの完璧なるイメージに自分を近づける努力は、じつは非常にネガティブな側面も持っている。具体的には、自己の身体への嫌悪、不安やうつ病を引き起こすこと。さらには、不健康なダイエットや無理な筋肉増強を誘発しかねないことだ。また、自己の体重に対する意識過剰は拒食症の一因でもあり、実際に拒食症で命を落とすケースのおよそ10%が、このことに起因している。また、金銭的費用の問題もある。もし仮に摂食障害になったとすると、患者1人につき年間で2,000米ドル近くの医療費が余分に発生するのだ。

 なぜ人は、他人に「完璧な」容姿を要求するのだろう? またその人自身も、なぜ、他者からそのように見られたいと欲するのだろうか? 理由のひとつには、この社会において、細身で健康的な容姿の人に対し、より多くの報酬が実際に支払われるという明快な事実がある。BMIが賃金・収入に直結していることは、すでに諸研究によってほぼ事実と判明している。特に女性の場合、体重過多や肥満は、職場において明らかな不利益をもたらす。そして女性ほどには露骨でないものの、やはり男性にも悪影響があることが複数の研究からわかっている。

Text by The Conversation