仕事における幸福を促進するウェルビーイングの文化

docstockmedia / Shutterstock.com

著:Cary Cooperマンチェスター大学、50th Anniversary Professor of Organisational Psychology and Health)、Ivan Robertsonマンチェスター大学、Emeritus Professor of Work & Organizational Psychology)

 Googleがソフトウェアエンジニアのチャディー=メン・タン氏を“ジョリー・グッド・フェロー”(Jolly Good Fellow:“いいやつ”の意。Google社内で最も評価の高いエンジニアに与えられる称号“フェロー”にかけている)という役職に昇進させたとき、彼のキャリアは――そして、シリコンバレーの文化全体が――急激に変化した。

 陽気な従業員のメン氏は、人をやる気にさせるその人柄を評価され、モバイル検索ツールの開発者から組織全体に幸福を広げる重役へと変貌を遂げた。幸福が彼の仕事になったのだ。

                                                                                                                 

 従業員満足度の強化のみを職務にする人材を最初に採用した企業はGoogleではない。1999年、Googleがまだ設立されたばかりのころ、フランスのファッションブランドKiabi(キアビ)はクリスティーヌ・ジュター氏をチーフ・ハピネス・オフィサー(Chief Happiness Officer: CHO)として採用した。従業員に幸福をもたらす役職には、彼女をはじめとする先駆者がいた。

 しかし、いざGoogleがこの役職を採用すると、従業員の幸福は重要な測定基準となり、他社はすぐさまGoogleの取り組みを導入した。メン氏の就任から3年後、ファストフード業界大手のマクドナルドまでもがドナルドをブランドマスコットからCHOに昇進させた。

 この役職の人気は今も健在だ。人材登録サイトのLinkedInには1,000人以上のCHOが掲載されている。しかし、何が従業員に本当の幸福をもたらすのか精査すると、多くの企業が間違った取り組みをしていることがわかる。

◆しかるべき投資
 幸福な従業員とは生産的な従業員で、生産的な従業員はさらなる利益を生むとする説がある

 さらには、幸福な従業員は競合他社への転職を考えないので、採用にかかる費用を削減でき、更なる増益につながる。故に、幸福な文化の促進に多額の投資を行っている企業の多くが、投資に対する十分な見返りを期待している。

 各種手当が充実している企業Expediaは、従業員の幸福を守るための旅行手当として1人当たり年間最高14,000米ドルを支給している。ほかの企業は、高い幸福レベルを保とうと、無制限の休暇、無料の食事、さらにはオフィストイまで用意している。

 しかし、従業員を幸福にするための答えは、体を包み込む心地よいソファや卓球台という形でもたらされるのではない。Expediaの例が示すように、同社をイギリス屈指の働きがいのある企業にしたのは物理的な環境ではなく、企業の“文化”であり、“キャリアのチャンス”なのだ。

◆ウェルビーイングを促進する
 見せかけの幸福に対し、従業員を尊重し、あら探しではなく褒めて報いることで従業員を管理し、従業員に柔軟な働き方を認めてワークライフバランスを提供するウェルビーイングの文化(身体的、精神的、社会的に良好な状態)の中で働くことは全くの別物だ。これこそが幸福への真の鍵であることが研究で分かっている

 2017年に行われたによると、57パーセントの企業に最低1人は在宅ないし希望勤務地での遠隔勤務者がいた。対象となった企業によると、これは必要な人材を確保するための選択だったという。そもそも、その仕事に最適な人材が近くにいるとは限らないし、オフィスに余裕があるとも限らない。

 しかし、この選択には別のメリットもある。遠隔勤務を認めるという暗黙の信頼と自主性を従業員に与えることは、無料のコーヒーとフルーツを用意したオフィスに引きずり込むことよりも彼らを幸福にするだろう。

 イギリスの改革論者ジョン・ラスキンが、「人が仕事で幸せになるためには、必要なことが3つある。その仕事に向いていること、頑張りすぎないこと、そして、達成感を得られることだ」と語ったのは、1851年のことだ

◆性格のタイプ
 研究によると、従業員の幸福は、その性格によっても左右される。私たちが設立した、職場のウェルビーイングに関するコンサルタント企業ロバートソン・クーパー社は、異なる企業や部署の従業員3,200人を対象にした大規模な研究を行った。その結果、ある性格タイプの従業員は、ほかの性格タイプの従業員よりも“仕事でのいい日”を多く体験していることが分かった。

 ポジティブな感情と熱意のスコアが高い従業員、悲しみ、絶望、孤独のような抑鬱傾向のスコアが低い従業員、そして、“作業を始めたら最後までやり遂げる”従業員について、“仕事でのいい日”の日数が特に多いことを私たちは発見した。

 この3つの性格特性をまとめると、3つの性格特性すべてを持ち合わせる従業員の“仕事でのいい日”が79パーセントである一方、これらのスコアが低い従業員の“仕事でのいい日”は57パーセントにとどまった。この数字は、仕事に対する満足度、健康状態、生産性に結びつく。

 この結果が示唆するのは、雇用者はこの3つの性格特性を持つ人材を採用するべきということだが、もちろん、これらの性格特性は欠くが、それ以上に重要な能力を持っている人材がいる可能性もある。そして、幸福の特性を考慮して人材を採用したところで、仕事における満足は、心から従業員を尊重し、信頼し、思いやりと共感をもって管理し、その生活によりよいバランスを提供する職場文化によるところが大きいだろう。

 私たちの近著『Well-being: Productivity and Happiness at Work』(ウェルビーイング:仕事における生産性と幸福)では、このような幸福の文化がどのように純利益を引き上げるかを、ロールス・ロイス、BT、ジョン・ルイス・パートナーシップ、ネットワーク・レール、英国行政府をはじめとする大手雇用者のケーススタディで示している。

 仕事における幸福と満足は、ランチに寿司をおごってもらうことでも仕事中に肩をもんでもらうことでもなく、上に立つ人間の態度によってもたらされる。マーク・トウェインがかつて、「あなたの夢や希望をけなすような人間には近づくな。つまらない人間はあなたをバカにするが、真の偉大な人間はあなたもきっと夢を実現できると思わせてくれる」と言ったように。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Naoko Nozawa

The Conversation

Text by The Conversation

Recommends