レクサスの『バックトゥザフューチャー』的スケボーに海外興奮も、非売品で「がっかり」

 トヨタ自動車が世界展開する高級車ブランド「レクサス」が、空中浮揚するスケートボード「LEXUSホバーボード」を作成し、5日、その全容をウェブサイトで公開した。ホバーボードは、1989年公開の映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(BTTF2)に登場する有名なものだ。今年、2015年は、劇中で未来として描かれた年に当たる。ブルームバーグは「SFが現実のものになった」と報じた。このホバーボードはネットユーザーの間で大きな反響を呼び、海外の主力メディアもこぞって取り上げている。しかし事前の期待の大きさからか、失望を表明する記事も目立った。

◆レクサス・ブランドのアピールのためのプロジェクト
 レクサスのホバーボード作成プロジェクト「SLIDE」は、同社のグローバルブランド広告「AMAZING IN MOTION」のシリーズ第4弾として行われた。同社によれば、この広告シリーズは、レクサスが提供し続けていく「期待を超えた驚きと、その先にある感動」を表現するもの。英テレグラフ紙によると、先進のデザインと技術の新たな可能性を追求していくという同社の方針を具定的に示すことが狙いだという。

 6月に「SLIDE」の最初の動画が公開された際には、ネットで熱狂的評判となったとUSAトゥデイ紙は伝えている。ワシントン・ポスト紙は、今、インターネット中が、レクサスの有名なホバーボード・プロジェクトで興奮状態になっている、と語る。

 レクサスによれば、プロジェクト完成に18ヶ月要したそうだ。費用について同社は明らかにしていないが、映像を見るかぎり、相当の額に上ったと想像される(超電導装置メーカー・エヴィコとのドイツでの研究開発、スペイン・バルセロナの特設ホバーボード場「ホバーパーク」の設置など)。

 ブルームバーグは、レクサスがこれほどの労力をかけてホバーボードを開発した背景について、自動車業界はずっと昔から、注目を集めることを競い合っている場だと指摘する。さらに、自動車メーカーは今日、自動運転車の作成を熱望する大手ハイテク企業と激しく争っており、注目を集める競争が今ほど激烈になったことはない、と語る。また、同業社間の争いについても、他に抜きんでて注目を集めることが、今日ほど大変だったことはないとしている。

◆超電導リニアと同じ磁気浮上式を採用
 LEXUSホバーボードの実現に用いられた技術には、多くのメディアが関心を寄せた。LEXUSホバーボードは超電導リニアと同じ磁気浮上式を採用している。ボード本体に収められた高温超電導体は液体窒素によってマイナス197度まで冷却される。ボードは地面に敷設された永久磁石のレール上を走る。電力は必要としない。

 ブルームバーグは、磁気浮上技術自体は目新しいものではないし、ホバーボードに採用されるのもこれが初めてではないと語る。米Arx Paxのホバーボード「HENDO」も、仕組みは異なるが、磁気浮上方式を採用している。HENDOは動作に電力を必要とし、銅やアルミニウムなど導体の上を走行する。しかしブルームバーグは、LEXUSホバーボードならではの新しい点として、ホバーボードというものはどういう見た目で、どのように動くべきかについてのBTTFファンの見方にうまく当てはまっているとした。

◆映画の中のホバーボードがライバル
 映画の中の明確なイメージがあるので、必然、ホバーボードへの要求は高いようだ。LEXUSホバーボードに対して、海外メディアから相次いで失望の声が上がったが、期待の裏返しだったのだろう。

 特に不満が表明されていたのは、映画のホバーボードと違い、LEXUSホバーボードが磁気レールの上しか走れないという点である。ワシントン・ポスト紙はこの点を主題として報じ、ひどい期待外れだと語った。レクサスが実際に機能する試作品を作り上げたのは、いかにもすごいことだが、技術的には以前からあるもので、レクサスがやったことは、単にリニアモーターカーをスケートボードのサイズに縮小して、レールを地面に埋めただけだ、としている。

 レクサスにはこのホバーボードを製品として発売する計画がないことにも、失望の声が多かった。テレグラフ紙は、「BTTF2を見たことがあれば(見たことない人がいるのだろうか)、誰もが自分用のホバーボードを購入できる日が来ることを夢見た」とまで断定している。

 またテレグラフ紙は、(映画と違い)乗るのが非常に難しそうな点についても注目した。プロ・スケートボーダーのロス・マクグラン氏は、LEXUSホバーボードの開発段階からかかわっているが、動画ではなおも扱いに苦労している様子が見られる。同氏でもボード上にとどまるのに苦労するなら、私たちにどんな希望があるのか、と同紙は嘆いている。マクグラン氏は、「スケートボード歴20年になりますが、摩擦がないので、特にホバーボードに乗るのに必要な姿勢とバランスの面で、全く新たなスキルを身に付けなければならないようでした」と語っている。

Text by 田所秀徳