トヨタの燃料電池車、“自動車王国存亡かけた長期計画”と海外 普及には懐疑的報道も

 トヨタは25日、同社初の水素燃料電池車(FCV)の市販車を来年3月末までに日本国内で発売すると発表した。セダンタイプで価格は700万円程度。政府は購入者への補助金と減税の導入を検討している。アメリカ、ヨーロッパでも同年夏に販売される見込みで、ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)やロイターもこのニュースを報じている。

【米紙は試作車のデザインを酷評】
 同日行われた記者会見では、試作車の実車と走行中の映像も公開された。クリスチャン・サイエンス・モニター(CSM)紙は、発表で明らかになったことを以下のようにまとめている。

・日本発売は2015年3月ごろ。アメリカ、ヨーロッパは同年夏発売。
・水素燃料スタンドなどのインフラがある地域(都市部)で限定販売される。
・日本での価格は当初予想より300万円安い700万円〜。欧米での価格は未定。

 同紙は、鮮やかな青で塗装された試作車のデザインについて、「昨年の東京モーターショーで発表されたコンセプトカーとほぼ変わらない」とし、一般的な大衆セダンのデザインに「犬の下顎状のものをつけただけだ」と酷評している。一方、WSJは2つに分かれた大型のフロントグリルに着目し、「ここから取り入れられた空気が水素燃料に作用し、動力源となる水とエネルギーを供給する」としている。

【補助金により購入価格は500万円以下に?】
 FCVは、水素を燃料に発電して駆動する電気自動車(EV)の一種だ。排出するのは水蒸気と熱のみだとされている。バッテリー式のEVに対するアドバンテージは、航続距離と燃料補給の簡便さで、充電に30分から数時間かかるバッテリー式に対し水素の補給は数分で済み、5倍の航続距離が望めるという(ロイター)。

 しかし、水素スタンドや水素燃料の生産設備などのインフラ整備は、日米欧ともほとんど進んでいないのが現状だ。各海外メディアもこの点を最大の課題に挙げる。自動車産業に詳しい東京都市大学の井上隆一郎教授は「10年後でも日本市場での燃料電池車のシェアは10%以下にとどまるでしょう」とロイターに答えている。

 普及には各国政府のバックアップが不可欠と言える。日本政府はFCVの普及を国の成長戦略の一部に掲げ、トヨタの発表の前日、購入者への補助金と減税に加え、水素スタンドの建設にも補助金を出す計画を発表した。それらの金額は明らかにされていないが、WSJはプリウスの例からトヨタFCVの実際の購入価格は500万円以下に抑えられると予想する。また、政府与党は、2016年度までに都市部に100ヶ所の水素スタンドを作り、購入コストを2025年までに200万円程度まで下げることを目標にしているという(ロイター)。

【20年、30年先を見据えた戦略と言うが・・・】
 ホンダも同日、来年中のFCV発売を発表した。また、ヒュンダイが今月から米カリフォルニア州で水素燃料のSUVの限定販売を開始するなど、海外勢の動きも活発だ。しかし、トヨタ・ホンダの日本勢は技術的なアドバンテージがに自信を持っているという。
 
 ロイターは、「自動車王国としての日本の将来は、(FCVが)これから数十年間の主要テクノロジーになるかどうかにかかっている」と論じる。先の井上教授は、日本政府とトヨタ・ホンダがタッグを組む普及戦略を「次の10年ではなく、20年30年先を見据えたものだ」としている。トヨタ自身も、小木曽聡常務が「初期の損失を覚悟しなければセールスの拡大は不可能だ」と述べるなど、長期的な視点に立ったビジネスであることを強調している。

 それでも、CSM紙は「FCVの普及は簡単ではない」と懐疑的だ。同紙はアメリカだけでも17万5000ヶ所の水素スタンドが必要で、建設には1ヶ所につき100万ドルほどかかるとしている、また、決して安いとは言えない水素燃料の生産コストは、将来的にも「ゆるやかにしか下がらない」とし、「コストの大半はユーザーに転嫁され、FCVを所有することは高くつくだとう」と論じている。


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NewSphere編集部
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Text by NewSphere 編集部