「地中海食」でサステナブルな未来都市へ イタリア・ポリカで進む一大プロジェクト

イタリアのポリカ市|mezzotint / Shutterstock.com

 「地中海食」という言葉がダイエットや健康面で話題にされたのは、今から10年ほど前だ。今その地中海食が「サステナビリティ」という観点から改めて注目を集めている。気候変動対策の一環として、食業界全体の構造改革や、過疎化の進む街のリバイバルに活用できるというのだ。イタリアの団体は、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている「地中海食」を街のあらゆる活動の中心に置くことで、過疎化を迎えた観光都市ポリカの未来都市形成を進めている。

◆注目される気候変動と食の関係性

 2021年に、英国物理学会(Institute of Physics:IOP)の出版部門から、農場から食卓までの「食にまつわるサプライチェーン」による温室効果ガス排出量に関するレポートが発表された。そして畜産にまつわる排出量が、全体の3分の1を占めていることが示された。また国連食料農業機関(FAO)のデータに基づくと、人為的な温室効果ガス排出量の14.5%が畜産業によるもので、二酸化炭素(CO2)だけでなく、メタン(CH4)や亜酸化窒素(N2O)も排出し、CO2と同様に地球温暖化の原因を作っているという。

 こうしたなか、もはや「食生活」そのものを見直す段階に人類は来ているのではないかと考える人が出てきた。ニューヨーク・タイムズは昨年、「気候変動と食」にまつわる特集サイトを発表。さまざまなデータをもとに、私たちの食生活がどのように気候変動に影響を与えているかを説明した上で、食生活の変え方への提案を、レシピ紹介も含めて行っている。

 そこで今見直されているのが、野菜や果物を中心とした食を展開する「地中海食」だ。地中海食の特徴は、野菜、豆類、果物、全粒穀物、ナッツ類、種子、鶏肉、魚、オリーブオイルが豊富で、チーズとヨーグルトも頻繁に食される。赤身肉、卵、菓子は控えめで、赤ワインが適度に飲まれる。主にイタリア、モロッコ、スペイン、ギリシャといった地中海を囲む国々で食される料理の総称だ。(ハーバードヘルス出版NCBI

1993年に発表された「地中海食ピラミッド」(Wikipedia)。
赤身肉や精製された米や糖質の多いものの摂取は極端に少ないのが特徴

 そして、その地中海食を使って地域の問題解決を図ろうとする団体が現れた。「Future Food Institute(フューチャーフードインスティチュート、以後FFI)」というイタリアの団体が、あらゆる考えの中心に置き、土地に根差した人の生活を支える食の生産と消費のサイクルを再構築するとともに、文化継承と高齢化問題解決にも役立つ手法を実行する戦略的プロジェクトを立ち上げたのだ。

Text by 寺町 幸枝