ハマスとイスラエルが国際法違反とされる理由 戦争における国際法の適用

Ariel Schalit / AP Photo

 最近中東で起きている紛争においてハマスとイスラエルは国際法に違反したと糾弾されており、国連は双方が犯した戦争犯罪の証拠を集めているという。

 戦争をしている最中に法を執行するのは著しく困難であり、紛争終結後に行われる加害者の責任追及もあやふやになることがある。

 以下でいくつかの論点を整理する。

◆戦争のルールとは
 武力紛争のルールを規定しているのは、侵略戦争を禁止しつつも自衛権は認めている国連憲章など、国際的に認知された一連の法律と決議である。

 戦場での行為に関しては、第二次世界大戦後に策定され、多くの国が批准したジュネーブ条約などの国際人道法がある。

 1949年に定められたジュネーブ諸条約(ジュネーブ4条約)では、戦時下において民間人、負傷者、捕虜を人道的に扱うことが定められている。殺人、拷問、人質、「屈辱的で品位を傷つけるような扱い」を禁止し、交戦相手でも病人や負傷者の手当を施すよう求めている。

 こうしたルールは国家間の戦争だけでなく、今回のイスラエルとハマスのように当事者の一方が国家ではない紛争にも適用される。

 戦争法における別の重要な文書に国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規程がある。ここでは、民間人、民間人居住地、人道支援活動家に対する意図的な攻撃、軍事的に不要な財産の破壊、性的暴力、不法な国外追放などを戦争犯罪として定めている。

 ほかにも、化学兵器や生物兵器など特定の種類の兵器を禁止する規定を定めた協定があり、すべてではないにせよ多くの国が署名している。

◆ハマスの行為は戦争犯罪か
 イスラム原理主義組織ハマスは10月7日、イスラエルの市街地に向けて数千発のロケット弾を撃ち込み、パレスチナ自治区ガザ地区の境界を越えて数百人の武装兵を送り込んだ。自宅や通りにいた子供や高齢者を含む一般市民を殺害し、大勢の人を連れ去った。イスラエルによると、少なくとも1400人が犠牲となり、199人が拉致された。

 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)で法学講師をしているハイム・アブラハム氏は「(ハマスは)自宅にいた市民を虐殺し、連れ去って人質にした。明らかに戦争犯罪だ」と指摘する。

 アムネスティ・インターナショナル・フランスの国際司法委員会で弁護士をしているジャンヌ・スルツァー氏も、ジュネーブ条約では「民間人を人質にしてはならないことが定められており、もしハマスがそのような行為をしたのなら、戦争犯罪とみなされるだろう」と述べている。

◆イスラエルの反撃は合法か
 ハマスが支配するガザ地区にイスラエル軍は空爆を実施し、食料、水、燃料、電力の供給を妨害し、来るべき地上戦を前に同地区北部から退去するよう市民に勧告した。ガザ地区の当局によると、数日に及ぶ砲撃で多数の死傷者が出ている。

 イスラエルはガザ地区に住む200万の人々を国レベルで攻撃している、と非難する人もいる。

 ジュネーブに本部を置く赤十字国際委員会(ICRC)も、数十万もの人に対し自宅から退去するよう求めたのは「食料、水、電気へのアクセスを拒絶する完全な包囲をしたことと合わせて、国際人道法に背くものである」と指摘する。

 国際的な人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、イスラエルが白リンを含む弾薬を使用したと非難している。焼夷弾の使用自体は禁止されていないものの、人口密集地で使うことは一般的に認められていない。イスラエル国防軍は、ガザ地区で白リンを使用したことはないと反論している。

◆犯罪人は責任を問われるのか
 国連調査委員会(COI)では、昨今の紛争において「双方の当事者が犯した戦争犯罪の証拠を収集し、記録にとどめている」とコメントしている。これらの証拠は、パレスチナ自治区の状況について国際刑事裁判所が実施している調査の結果と合わせて検証されるだろう。

 オランダに本部を置く国際刑事裁判所は、国際法違反の容疑で国の関係者を訴追し、被害者への補償を命じる権限を有している。ところがアメリカ、ロシア、イスラエルなど一部の国は国際刑事裁判所の管轄権を認めていないほか、同裁判所も逮捕状を執行する警察組織を持たない。

◆ほかの訴追手段はあるのか
 国際刑事裁判所は戦争犯罪人を訴追する目的で設置された唯一の恒久的な国際機関ではあるものの、国際司法裁判所(ICJ)やヨーロッパ人権裁判所などほかの国際裁判所も、違反容疑に関する訴訟を審理することができる。イスラエルの国内裁判所でも同じことが言えるほか、アメリカの法律をもとにアメリカ人の被害者がハマスに対する賠償請求を国内裁判所に持ち込むことも可能だ。

 ロシアのウクライナ侵攻の時がそうであったように、現在繰り広げられている紛争で戦争犯罪人を提訴するまでにはかなりの時間を要するとみられる。だがアムネスティ・インターナショナルのスルツァー氏によると法的な動きは現実に起きているといい、「ハマスの攻撃を受けたフランス国籍や二重国籍を持つ被害者がフランスの裁判所に訴えを起こした」と述べている。

 国際法に違反すると、ウクライナ侵攻に対してアメリカや欧州連合(EU)などがロシアに課したような制裁を受ける可能性があるほか、国連の承認による軍事介入を呼び込む事態に至ることもある。

By JILL LAWLESS Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP