なぜイタリア・ランペドゥーサ島への移民が急増しているのか?

Cecilia Fabiano / LaPresse via AP

 9月11日から数日間、何千人もの移民・難民が海を渡るには心もとないボートに乗り、チュニジアから地中海を渡ってイタリアのランペドゥーサ島に上陸。地元当局と援助団体が対応に追われている。

 人でごったがえしたランペドゥーサ島の移民・難民レセプションセンターの混乱を極めた様子を受け、一斉に怒りの声があがっている。その矛先は密航を斡旋する業者だけでなく、イタリアのジョルジャ・メローニ首相やヨーロッパ連合の担当当局、そしてチュニジア側のカイス・サイード大統領に対しても向けられた。

 一体どういうことなのか。

◆イタリアに押し寄せた移民の数
 ランペドゥーサ島には、ざっと24時間の間に120隻を超えるボートが到着。これにより、島のレセプションセンターの滞在者数は一時7000人にものぼった。これは定員の15倍の人数で、島の定住者数を超える。

 イタリア内務省によると、今年海路でイタリアに流入した移民の数は、9月16日の時点で12万7000人超と昨年同時期の倍近くに達した。

 ランペドゥーサ島はイタリア本土よりも北アフリカに近く、長らく密航斡旋業者のターゲットとなってきた。国際移住機関(IOM)地中海調整事務所の広報官を務めるフラビオ・ディ・ジャコモ氏によると、現在ヨーロッパ行きの主な出発地となっているチュニジアからの移民の場合、イタリアにやって来た全移民の約70%をランペドゥーサ島で受け入れている。

 ヨーロッパでは、2015~2016年の移民危機の時や、さらに最近ではロシアのウクライナに対する全面侵攻の後など、1日あたりの移民流入数が今回をはるかに上回ってもそれに対応してきた。しかし小さい島に短期間で立て続けに移民が殺到したため、対処できない事態になったとディ・ジャコモ氏は指摘する。

 今回やって来た移民は少しずつ本土へ送られており、そちらで亡命申請の手続きが進められる。その多くは就労や親族との再会を目指し、ヨーロッパ内のほかの地へ向かうことを希望している。

◆移民の詳細
 チュニジアを出てランペドゥーサ島に到着するボートに乗船しているのは、コートジボワール、ギニア、カメルーン、ブルキナファソ、マリ、そしてチュニジアなど、アフリカ各国の市民である。その多くが、ヨーロッパへの出航を決意する前に何年間かチュニジアで居住、就労していた。

 IOMによると隣国のリビアを横断してからチュニジアに入国し、そこから移民としてやって来る人々も増えている。例えばエジプト、エリトリア、スーダンの市民などが挙げられるが、これらの地域ではライバル関係にある軍指導者の間で繰り広げられている対立の影響で、4月以降すでに400万人超が退去を強いられている。

 ヨーロッパ行きの密航船に乗っているのは、大半が若い男性か単身の未成年者だ。女性や子供の姿も見られるが、数は少ない。

◆移民が急増した背景
 移民の専門家によると、地中海で発生した暴風雨ダニエルの影響で、チュニジア沿岸部の都市スファックスとその周辺の密航斡旋業者が数日間にわたり休業せざるを得ず、停滞が生じた。

 天候が回復するとすぐに、業者はチュニジアの浜辺から100隻を超える30~40人乗りの小さな鉄製ボートを出航させた。

 欧州国境沿岸警備機関でシニアプレスオフィサーを務めるクリス・ボロフスキ氏は「そんなことをすれば、いつもより多くの人が密航に成功し、システムをパンクさせるのも必然です」と言う。

 さらに夏の終わりということもあって、秋や冬が来て天候が過酷さを増す前に一か八かの勝負に出ようと、密航船が殺到した。

 しかし、そのほかにも根本的な要因がある。チュニジアの社会経済は高インフレと仕事不足でスパイラルに陥っており、国民も国内在住の外国人もなす術がない状況だ。

 また、今年初めのサイード大統領の発言を受け、国内で特にサブサハラ諸国の移民に対する反移民感情が高まったことも、移民らが海を渡ろうと決意する要因となった。

 ディ・ジャコモ氏は「多くの移民がチュニジアに住んでいましたが、人種差別の被害を受けたことで、国外へ逃れようとしました」と言う。

 7月にはチュニジア当局が何百人もの黒人の移民・難民を一斉検挙した上、砂漠の国境地帯に置き去りにし、子供を含む数十人が死亡したと、人権団体やリビア当局、移民ら本人が訴えている。

 しかしイタリア側も、移民が殺到する事態をまったく予想できなかったはずはない。

 国際組織犯罪対策会議(GI-TOC)の研究員でチュニジア人のタスニム・アブデラハム氏は「チュニジアとその国境地域のどの指標を見ても、移民の増加が続くだろうと示していました」と言う。

◆チュニジアと合意締結の効果は
 チュニジアからの移民の急増を受け、メローニ首相と欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、独裁制を強めているチュニジア大統領との間に移民の渡航制止を軸とした新たな合意を締結しようと、北アフリカの同国を複数回訪問した。

 欧州連合(EU)は7月16日に署名された覚書で、1億500万ユーロ(約166億円)を国境警備に投入するといった内容を盛り込んだ広範囲にわたるパートナーシップを締結することを発表した。

 EUが出資しチュニジアで展開されるこの新たなプロジェクトは、まだ実施にはいたっておらず、移民の抑制と経済の安定化につながるかはまだわからない。

 アブデラハム氏は「今のところ、状況は悪化しかしていない」と言う。

 チュニジアはまた、相反する課題を抱えている。一方では、崩壊寸前の経済に投資が必要だ。しかしもう一方ではサイード大統領が、チュニジアをヨーロッパの国境警備隊にしたくないと発言している。

 アブデラハム氏は「チュニジアが移民の出航を完全に阻止してくれるだろうと期待するのは、現実的ではありません」と話す。阻止したくてもチュニジアの力が及ばない。移民を封じ込めるどころか、海辺に打ち上げられる死体の数が急増したせいで沿岸都市の遺体安置所がパンクしているのを、どうすることもできずにいる。

 政治家からは、チュニジアを非難する声もあがっている。ヨーロッパとの交渉を有利に進めようと、密航斡旋業者が次から次へとボートを出すのをあえて容認したというのだ。しかしこれに関しては、まだエビデンスが得られていない。

 いずれにしても、斡旋業者はスファックス周辺の砂浜からボートを送り出す前に、秘密の造船所で何十隻もの鉄製ボートの溶接作業を行っているため、見つからずにいられるとは考えにくいというのが、専門家らの一致した見方だ。

 移民は危険なボートに乗船するため、1500~5000チュニジア・ディナール(約500~1600ドル)を業者に支払う。リスクに反して需要は伸びており、行先はイタリアだけにとどまらない。スペインとギリシャでも、今年に入ってから海からの移民の数が増えている。

 ヨーロッパが移民政策を強硬化し、監視技術を向上しても、地中海に張り巡らされた密航ネットワークはすぐさまそれに順応できてしまうようだ。

By RENATA BRITO Associated Press
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP