今こそ結束のはずが…物議を醸すマクロン仏大統領の「台湾」発言

中国の大学で演説するマクロン仏大統領(4月7日)|Thibault Camus / AP Photo

◆今こそ結束が求められるが
 フィンランドがロシアのウクライナ侵攻直後からNATO加盟を急いだのは、1300キロ以上にわたって国境を接する安全保障上の脅威に対し、NATOの相互防衛体制によってけん制し、自国の安全保障を維持しようとしたからだ。そして、そのNATOを主導するのはアメリカであり、NATO加盟の欧州諸国は事実上アメリカの軍事力に依存する形で対ロけん制を行い、それぞれの安全保障を維持している。

 このような事実に照らせば、ロシアという脅威に改めて直面した欧州は今こそ結束する必要があるため、今回のマクロン発言に対して欧米諸国から批判の声が出るのは自然な流れだろう。また、対中国に集中したいアメリカは、ロシアという問題が浮上したことで少なからず焦りを感じており、マクロン発言によって欧米の結束が揺らぎ、中国やロシアに政治的な隙を与えかねないと懸念しているだろう。

◆理想と現実のジレンマ
 一方、対中・対ロでこれまでになく自由主義陣営の結束が求められるなか、各国によって温度差があるのも事実だ。日本にとって最大の貿易相手国が中国であるように、欧州諸国の対中経済依存度も高い。リトアニアのように中小国でも中国に対して強い姿勢で対峙する国もあるが、安全保障と経済の狭間で難しい舵取りを余儀なくされている国々も多い。

 そして、近年、欧州諸国の政治家による台湾訪問が続き、イギリスやフランス、ドイツの海軍がインド太平洋で存在感を示しているが、欧州諸国がどこまで台湾問題を重視しているかはわからない。たとえ時の政権が台湾問題を重視していたとしても、その後の政権によって優先順位が低下することもある。

 また、その前提で欧州市民が実際どこまで台湾問題を認識しているかも未知数であり、そこには日本と大きな乖離があると思われる。欧州諸国のなかで対中警戒論がもっと広がれば、台湾問題への関心も高まるだろうが、我々は今回物議を醸したマクロン発言を「批判の嵐を生み出しだ」だけで片付けてはならない。

 いずれにせよ、マクロン大統領も5月に広島を訪れるが、主要7ヶ国(G7)は今回の発言には触れず、G7サミットで独自のメッセージを強く発信するべきだ。サミットで今回の発言に触れるようなことがあれば、それ自体が中国やロシアを利することになる。

Text by 本田英寿