政治、経済、モラル チュニジアを襲う3つの危機

チュニジアのカイス・サイード大統領(右)|Slim Abid / Tunisian Presidency via AP

◆生活難にあえぐ市民
 このような政治の混乱が続くなか、国民はインフレと物不足にあえいでいる。国立統計研究所(INS)によれば、2月のインフレ率は10.4%。食料品のインフレ率は特に高く、1年で卵は32%、羊肉は29.9%、鶏肉は25.3%、食用油は24.6%、牛肉は22.9%値上がりした(ZAWYA)。一方で経済は低迷しており、INSによれば2022年の実質経済成長率は2.4%だった。

 輸入する経済力が国にもないため、牛乳、バター、砂糖、油、コーヒーなどの基本的な物資さえ不足し、これらを手に入れるために長時間列に並ぶのが市民の日常となっている(フランス・アンフォ、1/30)。

 失業率は15%を超え、貧困は悪化するばかりで、2022年には3万2000人以上のチュニジア人が不法に国外に脱出した(ル・モンド紙、1/29)。

 サミル・サイード経済大臣は、チュニジアのインフレの主な要因はウクライナでの戦争であると説明している。政府はパン、砂糖、パスタ、牛乳などの食料品やエネルギーへの補助金を段階的に解除していく構えで、今後同国のインフレがますます厳しくなることは必至だ(レ・ゼコー紙、1/6)。

◆サハラ以南のアフリカ人をスケープゴートに?
 そのようななか、サイード大統領は2月21日、サハラ以南のアフリカからの不法移民の「大群」の存在は「暴力と犯罪」の源であり、チュニジアの「人口構成を変えようとする犯罪事業」の一部であるという人種差別発言をした(TV5、3/9)。

 アフリカ連合も複数のNGOもすぐさまこれを非難する声明を発表し、国内でも人種差別に抗議するデモが開かれたりした。

 同時に、このサイード大統領の発言はチュニジア国内における黒人への暴力、解雇、排除の動きを一気に加速させた。借家を追い出され、殴られ、逮捕される「黒人狩り」と呼べるような事態になった(ル・モンド紙、3/9)。

 公式統計によれば、チュニジアにはサハラ以南の出身者が2万1000人以上住んでおり、その大部分は不法滞在者だ(TV5)。これまで、チュニジアはマグレブ諸国のなかでは最も人種差別の少ない国だとみなされており、不法滞在者についても出国の際に不法滞在期間に応じて罰金を払えば問題なく出国できていた。

Text by 冠ゆき