自爆戦争となるロシアのウクライナ侵攻 プーチンは何を失ったのか

Mikhail Metzel, Sputnik, Kremlin Pool Photo via AP

 ロシアは2月24日、ウクライナへの軍事侵攻を開始した。これは国際政治的に大きな出来事であり、それ以降、ロシアをめぐる情勢は厳しさを増した。それまで外交・安全保障政策の焦点を中国に当ててきたアメリカのバイデン政権を中心に、欧米諸国は一斉にロシアに対して厳しい姿勢を貫くようになり、ロシアへの制裁を拡大させるだけでなく、ウクライナへの軍事支援を強化した。

 侵攻当初、プーチン大統領は短期間のうちに首都キーウを掌握し、ゼレンスキー政権を退陣に追い込み、親ロシア的な傀儡政権を樹立できると考えていた。しかし、プーチン大統領の読みは完全に外れ、最新鋭の武器を最前線でフルに活用するウクライナ軍を前にロシア軍は勢いを失い、戦うロシア兵の士気も徐々に低下していった。プーチン大統領の戦略や野望は今や夢物語と化している。

◆ロシアの劣勢が顕著になった9月
 プーチン大統領は9月、軍隊経験者などの予備兵を招集するため部分的動員令を発令した。しかし、モスクワやサンクトペテルブルクなどロシア各地では反発する市民と治安部隊との間で衝突が相次ぎ、逮捕者や負傷者が増加するなど、反プーチンの動きが一気に拡大した。20万人以上のロシア人がフィンランドやジョージア、カザフスタンなどに脱出した。

 また、プーチン大統領は同月、ウクライナのドネツクとルガンスク、サボリージャとヘルソンの東部・南部4州でロシア編入の是非を問う住民投票を行い、同4州をロシアへ併合する条約に署名した。それ以降、同4州はロシア的には自国領土となったわけだが、セルゲイ・ショイグ国防相は11月、併合したヘルソン州の州都へルソンから軍部隊を撤退させる方針を明らかにした。自ら併合を堂々と宣言したにもかかわらず、併合した地域から軍を撤退させるという動きは同政権にとって大きな政治的痛手になった。

 さらに、ロシア軍は最近意図的にウクライナ各地の電力施設などのインフラ施設をミサイル攻撃しており、冬を迎えるウクライナの市民は過剰な節電を余儀なくされている。これも劣勢ロシアの証左となるだろう。

Text by 本田英寿