アフリカで食料価格上昇、飢餓危機が深刻化 ウクライナ戦争で加速

Farah Abdi Warsameh / AP Photo

 ソマリアの首都に住むアヤン・ハッサン・アブディラマン氏は、11人の子供たちに毎日朝ごはんを作る。そのための小麦粉の価格は、わずか2、3ヶ月前に比べて2倍に上昇している。

 ソマリア国内で販売されるほぼすべての小麦は、ウクライナとロシアから輸入されている。2月24日にロシア政府が隣国に戦争をしかけて以来、黒海を経由する輸出ルートが封鎖された。最悪な状況は重なるものである。干ばつが続いた「アフリカの角」と呼ばれる大陸東端地域では、推定1300万人が深刻な飢餓に直面していると国連は警戒を促してきた。

 アブディラマン氏はより入手しやすい穀物であるモロコシを代用し、平たいパンを作ろうと試行錯誤してきた。けれども、物価の高騰は調理に必要な食用油をも直撃する。首都モガディシュの商店では、1瓶あたり16ドルでかつては販売されていたものが、いまでは45ドルになっている。

 同氏は「最近は生活にかかる費用が高くつき、家族にとっては小麦粉や油ですら買うことが難しくなっています」と言う。

 ソマリアへの小麦粉の輸入販売を手掛けるハジ・アブディ・ディブラウェ氏は、状況に好転の見込みがないことに懸念を示す。ほかの場所から食料を調達し運搬するための輸送用コンテナも、また不足しつつあるという。

 同氏は「ソマリアには小麦を栽培する場所もなく、その栽培方法についても私たちはよく知りません。いまある食糧を切らしてしまったら将来どのようなことが待ち受けているのか、とても心配しています」と話す。

 アフリカのサハラ砂漠南部に位置するサヘル地域では、この10年超の間で農作物の生産高が最も低く、その現状に農家は苦しんでいる。そこでは新たに1800万人が深刻な飢餓の危機に瀕している。国連世界食糧計画(WFP)は、農作物の端境期となる夏の終わりには食料不足がさらに深刻化する可能性を示す。

 5月初旬、WFP事務局長のデイビッド・ビーズリー氏は「深刻な飢餓はいまだかつてない状況にまで悪化しており、世界情勢は混乱を深めるばかりです。紛争、気候危機、新型コロナウイルス感染症、そして食費や燃料費の急騰が相まって破滅的な状況を作り出しています。その上ウクライナでは戦争が起き、さらなる大惨事が引き起こされているのです」と警鐘を鳴らす。

 UNICEFは、栄養失調にかかっている子供たちのための栄養補助食品ですら、この先半年の間に価格が16%上昇する可能性があると話す。ウクライナでの戦争と、感染症拡大に関連する混乱した状況が原因であるという。

 国連が発表したデータによると、2018年から2020年の間にアフリカ諸国は自国で消費する小麦の44%をウクライナとロシアから輸入している。アフリカ開発銀行からは、アフリカ大陸における小麦の価格が45%上昇しているとの報告があり、モーリシャスのクスクスからコンゴで売られる揚げドーナツにいたるまで、消費者はあらゆる食品をより高い価格で購入せざるを得ない。

 セネガルのマッキー・サル大統領は「アフリカは、生産を管理したり物流チェーンを制御したりすることはできません。状況に翻弄されるしかないのです」と述べている。アフリカ連合議長を兼任する同氏は、物価高対策をめぐる課題について、ロシアとウクライナを訪問し協議する意志を示している。

 ロシアのプーチン大統領は先日、ウクライナ侵攻を受けてロシア政府に科せられている制裁措置を解除するよう西側諸国に迫った。ロシアからの攻撃下にあるウクライナが、数百万トンの穀物や農産物を輸出できないことで世界的な食料危機が加速していると、ロシアは西側諸国にその責任を転嫁しようとしている。

 ロシア政府によると、プーチン大統領はイタリアのマリオ・ドラギ首相に対し「西側諸国が発動している政略的な制裁解除を条件に、穀物や肥料の輸出を再開し、食料危機を乗り越えるために大いに貢献する準備がある」ことを示したという。

 西側当局者はロシアからの要求を退けた。アントニー・ブリンケン米国務長官は、アメリカなどの各国が発動している対ロシア制裁には、食料や肥料、種の品目は対象外であると指摘する。

 一方でウクライナは、ロシアが制圧地域から穀物や農機具を略奪していると抗議している。ロシア国営タス通信は5月30日、ウクライナ南部を支配しているロシア暫定当局者の1人が、昨年その地域で収穫された穀物をロシア国内の取引業者へ輸送していることを認めたと報じた。

 いかなる場合においても、その穀物がアフリカに運ばれることはない。カメルーンでは、小麦の輸入量が不足し、パンの価格が40%値上げされて以降、毎日来る常連客の数が1日あたり300人からわずか100人に減少したとパン職人のシルベスター・アコ氏は話す。

 同氏は7人いた従業員のうち3人をすでに解雇しており、このまま何も変わらなければヤウンデでのビジネスを閉鎖しなくてはならないと不安を訴える。

 アコ氏は「50キログラム入りの小麦1袋の価格が、30ドルから60ドルに値上がりしています。その供給も安定したものではありません」と嘆く。

 小麦の輸入量が不足している一方で輸入肥料の価格が3倍に値上がりし、農家が追い込まれている。このことからアフリカ開発銀行は、アフリカでの食料生産量が20%減少する見込みを示し警戒している。

 アフリカ開発銀行は農家に対し、認定を受けた種や肥料の提供を含め、15億ドル規模の支援を行うことで対策を講じる予定であるという。輸入への依存度を下げることも計画には含まれているものの、経済体制の転換には数ヶ月どころか数年を要するだろう。

 セネガルのサル大統領は、食の志向はもっと短い期間で変えていくことが可能だと話す。かつて主食にしていた、地元で採れる穀物を消費するよう国民に呼びかけている。

 サル氏は「食習慣を変える必要もあると思います。私たちはキビを食べる習慣を捨て、アジアからコメの輸入を始めました。いまではコメの食べ方しかわからないにもかかわらず、生産量は十分ではありません。パンを食べる方法しか知らないのに、小麦を栽培していないのです」と述べている。

By OMAR FARUK and KRISTA LARSON Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP