ロシア参加禁止のダボス会議 ウクライナ、さらなる支援訴え

Markus Schreiber / AP Photo

◆会議を超えたメッセージ発信
 ダボス会議とは直接関係していないが、会期中のダボスでは、ほかにも国際社会の支援を訴えるウクライナのイニシアティブが見られた。その一つが、5月23日から25日まで開場したウクライナ・ハウス・ダボス(Ukraine House Davos)だ。ウクライナ・ハウスでは、3日間にわたって、さまざまな対話が行われた。初日夜の最終セッションでは、ゼレンスキー大統領とのビデオ対談も行われた。トピックは、ロシアとの戦争に直接関係するような防衛に関する話題、再建に向けたセキュリティ、テクノロジーの強化などについてだ。ダボスの街中に設置されたウクライナ・ハウスは、単なる対話の場としてだけでなく、ウクライナ支援と平和を訴え、メッセージをさらに拡散させるための象徴的かつ実用的な場としての役割を果たしたようだ。

 一方、同じダボスの街中には、ロシア・戦争犯罪・ハウス(Russian War Crimes House)が出現。この場所は例年のダボス会議の期間であれば、ロシア代表団が宿泊し、パーティーなどを開催する場所だが、今年はロシアからの参加が禁止されたため空いていた。これを機に、複数のウクライナ人アーティストらがハウスを借り、ロシア軍の戦争犯罪の実態を見せる展示場へと転換した。展示では、爆撃を受けたウクライナの各都市や遺体が並ぶ通りなど、生々しい戦争の様子をドキュメントした写真などが展開。ロシア・戦争犯罪・ハウスは、ウクライナのビリオネアである、ビクトール・ピンチュック(Victor Pinchuk)が支援する、ビクトール・ピンチュック財団(Victor Pinchuk Foundation)およびピンチュック・アート・センター(Pinchuk Art Centre)が主催した。

 経済界のトップが占拠するダボス会議。さまざまな国際問題が話し合われる場として注目される一方、ビリオネアがプライベートジェットなどで乗り入れるようなお金持ちのための排他的なプラットフォームとしての矛盾も指摘される。ビジネスにおいて、人権よりも利潤が優先されるという事例も少なくない。大統領による、制裁が不十分であるという訴え、そして、さらなる民間によるウクライナ支援を求める訴えは、長期化する戦争の話題に麻痺せず、また、戦争をノーマライズすることなく、人権・人命を守ることを、改めてリマインドするための重要な役割を果たす。いま現在は、ロシアがターゲットとなっているが、利益の最大化と人権問題や環境問題といった社会の歪みとの間に存在する矛盾に対して、世界のリーダーがどういった対策・対応をとっていくのかという点は、引き続き問われるべき普遍的な課題である。

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Text by MAKI NAKATA