強硬な対ロ姿勢が招く、もう一つのエネルギー安全保障リスク

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◆エネルギー安全保障上、生じる潜在的リスク
 ロシアによる石油の対日輸出規制というオプションは、今日の情勢をウォッチしていれば十分に想定がつくだろう。しかし、現在の日本の対ロ姿勢にはもう一つのリスクがあると筆者は感じている。要は、石油の9割を依存する中東諸国との関係だ。

 西側主導の対ロ制裁に産油国は参加していない。とくに、産油大国のサウジアラビアは、イラン核合意への復帰や脱炭素など地球温暖化対策を重視するバイデン政権をよく思っておらず、両国関係は冷え込んでいる。最近も、バイデン政権がロシア産原油の世界的締めつけを強化するなかで、サウジアラビアに対して原油の増産を打診したが、サウジアラビアはそれに不満を抱きバイデン政権からの電話会談も拒否した経緯がある。石油輸出国機構(OPEC)プラスにみられるようにサウジアラビアとロシアは石油市場で協力関係にあり、この問題をめぐって欧米と産油国には大きな隔たりがある。

 こういった情勢を日本に照らせば、一つのリスクが考えられる。日本が欧米と同じ立場を貫けば、サウジアラビアなどの産油国から日本も欧米とまったく同じだとして、今日欧米と産油国の間で顕在化している政治的摩擦が、日本と産油国の間でも生じてくる恐れがある。もちろん、産油国にとっても日本は大事な買い手であることから、すぐに大きな障害が生じることはないだろう。しかし、大国間の対立が複雑化、激化する今日の世界情勢においては、上述のようなリスクが拡大する恐れも排除できない。エネルギーに乏しい日本にとっては難しい立ち位置ともいえる。

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Text by 和田大樹