ロシアのウクライナ侵攻に沈黙するASEAN諸国、その背景

黒煙の上がるマリウポリの街(4月9日)|Evgeniy Maloletka / AP Photo

 プーチン大統領は4月12日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した後、珍しく公の場でコメントを発した。ウクライナとベラルーシとロシアはひとつの民族であり、ウクライナで起きていることは悲劇だがほかに選択肢はなかったと侵攻の意義を強調し、軍事作戦を継続する意志を示した。軍事作戦の正当性を強調したことで、ロシアをめぐる対立の長期化はもう避けられないだろう。一方、欧米諸国を中心にロシアへの批判が強まるなか、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国はほぼ沈黙を続けている。

◆ASEANが沈黙する政治的背景
 これまでのところ、シンガポールはウクライナ侵攻でロシアを非難しているが、ほかの国々からはロシア非難は見られない。その背景には何があるのだろうか。少なくともそれには二つの背景があると筆者は考える。

 一つは、中国の姿勢だ。最近もフィリピン、ミャンマー、タイやインドネシアの外務大臣が相次いで中国に招待されるなど、中国は多額の経済支援を行うなどしてASEANで影響力を強めているが、ASEAN諸国のなかには、「ロシア非難に回れば中国との関係が冷え込み、経済支援が停滞する」などの政治的懸念があると思われる。ロシアと欧米の対立が深まるなか、中国は引き続きロシアを非難せずむしろロシアへの経済的接近を図ろうとしており、このような国際情勢のなかでロシア非難に回ることは得策ではないとの心理が働いている可能性がある。

 とくに、ラオスやカンボジア、ミャンマーは長年中国から多額の経済支援を受け、親中的な立場を堅持しているので、この3ヶ国がロシア非難に回る可能性はゼロに近い。一方、インドネシアやフィリピン、マレーシアやベトナムなど中国と南シナ海で領有権を争い、米国との関係も重視する国々からすれば、まさに板挟み状態と言えるだろう。

Text by 和田大樹