人口爆発という脅威 今後の世界の安全保障を考える

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 近年、米中対立を中心に、国際社会の焦点は国家対国家の伝統的安全保障に回帰している。これは、トランプ時代の米中貿易摩擦、バイデン政権下での欧米vs中国、米軍のアフガニスタン完全撤退などによって拍車がかかっている。おそらく高い可能性で、米中2大国の競争・対立は続くことから、当然ながら日本の外交・安全保障の中心もそれに関係するものになるだろう。だが、国際的なテロ問題を研究する筆者としては、国際社会の意識が伝統的な安全保障に偏り、今後、テロや温暖化、貧困や経済格差などのグローバルな問題への意識が低下し、対処が疎かになってしまうのではないかと懸念している。

◆アフガニスタンでは人間の安全保障が脅かされている
 アフガニスタンでは今年夏にタリバンが実権を掌握し、民主政権は見るまでもなく崩壊した。そして、米軍が完全撤退したことも影響し、今後アフガン経済が大幅に悪化することへの懸念が広がっている。米国格付け大手のフィッチ・ソリューションズは9月、米軍撤退と新たなタリバン政権の誕生によってアフガニスタン経済の成長率が著しく低下するとの見込みを発表し、今年のアフガニスタン経済の成長率をプラス0.4パーセントからマイナス9.7パーセント、来年をマイナス5.2パーセントに修正した。

 また国連などはアフガニスタン国民の半数あまりが食糧不足に直面し、この冬に支援が滞れば数百万人が餓死する恐れがあると警告している。実際問題、テロよりはるかに深刻な問題との見方も強いが、食糧不足や収入の低下などによって若者たちが犯罪やテロに手を染め、国内の治安がいっそう深刻化する恐れがある。最近では、食べ物が買えない、手に入らないなどといって父親が娘を25万円で売ったというショッキングな報道もあった。まさに、アフガニスタンでは人間の安全保障が脅かされる事態となっている。

Text by 和田大樹