「クアッドプラス」は中国の影響力拡大を抑止できるのか?
◆クアッドプラスが抱える課題
しかし、クアッドプラスをめぐる動きが加速したとしても、それが中長期的にどこまで機能するかについては懐疑的な意見も少なくない。中国との安全保障上の対立がどこまで先鋭化したとしても、世界経済における中国のシェアを考慮すれば完全なデカップリング(切り離し)は非現実的であり、部分的デカップリングになることは目に見えている。
また、安全保障と経済の狭間で各国が悩む時間が長期化すれば、対中国で関係諸国が足並みを揃えることは難しくなるだろう。現在でも経済の対中依存度は各国によって異なるし、中国もそこを突いてくることは間違いない。たとえば、中国の商務省は25日、日中韓など15ヶ国が署名した地域的な包括的経済連携(RCEP)について、新たな中国の貿易パートナーとして日本が加わるとし、日本を重視していく姿勢を鮮明にした。中国も日本が米中の狭間で頭を抱えていることは十分に理解しているはずだ。
◆中国の影響力拡大の2つの意味
一方、中国の影響力拡大には2つの意味がある。1つは、東シナ海や南シナ海、インド洋の海洋覇権など「線」による影響力拡大である。海洋覇権において、中国は第一列島線内を事実上の基地とし、西太平洋での覇権を目指しているが、クアッドをめぐる動きはまさにそれを抑止することにある。クアッドは中国の線による影響力拡大を抑えるべく、バイデン政権はそれを同盟国とともに着実なものにしたいはずだ。
もう1つは、「点」による影響力拡大であるが、これはクアッドで対処するのは難しい。中国は経済支援を武器にアフリカや中東欧、中南米や南太平洋など各地で影響力を高めている。たとえば、中国は2006年からの10年間で、パプアニューギニアに6億3200万ドル、フィジーに3億6000万ドル、バヌアツに2億4400万ドル、サモアに2億3000万ドル、トンガに1億7200万ドルなど、莫大な額の資金援助を実施したという。このような中国国内から広がる線による影響力拡大ではなく、飛び地的な点による影響力拡大を抑止することはクアッドプラスの動きでも難しいだろう。
以上のように中国の影響力拡大には線と点による2つの拡大があるが、線による影響力拡大では一定の抑止は可能であろうが、点による影響力拡大を阻止することは現実的に考えて難しいのではないだろうか。
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