大陸を渡るサハラの砂に放射性物質 60年前のフランスの核実験

サハラ砂漠から飛来するアルジェ上空の砂塵(2月21日)|Fateh Guidoum / AP Photo

◆大気汚染とセシウム137
 アマゾン地域にとっては恩恵となり得るが、サハラの砂は厄介なものも運んでくる。第一に、大気汚染だ。フランスの場合、微小粒子状物質であるPM10を主とする汚染を引き起こす。そのため2月は上旬下旬ともに、フランス南部・東部を中心に大気汚染警報や注意報が発令され、車の走行速度制限を通常より低くするなどの対策が取られた(ラジオ局フランスブルー、2/24)。

 また2月24日には、フランスのNGO、西部地域放射線管理協会(ACRO)がこれらの「黄砂」にセシウム137が含まれていることを明らかにした。同協会は、その分量を1キロ平方メートルあたり約8万ベクレルと見積もる。人体に悪影響を及ぼすレベルではないが、いったいどこから運ばれてきたのか気になるところだ。というのも、セシウム137は「人為的に生成された放射性元素であり、砂の中に自然に存在するものではない」(ACRO)からだ。ACROの謎解きによれば、これは1960年代初期にフランスがアルジェリアのサハラ砂漠で行った核実験の痕跡だという。

1960年2月13日のサハラ砂漠での核実験の様子、フランス国立視聴覚研究所(INA)

◆60年前の所業のブーメラン
 ACROの科学顧問をしているカーン大学のバルベ教授は、セシウム137は、「30年ごとに放射線量が半減する。30年サイクルを7回繰り返すことで放射性物質は1%残るのみとなる」と説明する(フランス3、2/26)。同協会は、今回の発表は「フランスやその他の諸国がしたことを思い起こす」ことが目的だと明言し、「ブーメランのように戻ってきた放射性物質」と表現する。バルベ教授も「アルジェリア南部のサハラの人々は、セシウム137とともに日常を過ごしている。現在でも汚染のひどい地域が存在することを思うと、当時の汚染のひどさを想像せずにはいられない」と述べる(同)。

 この話は、星新一の傑作ショートショート『おーい でてこーい』を思い起こさせる。ある時突如として町に現れた穴。「おーいでてこーい」と呼びかけ、石を投げ入れても、何の手ごたえもない。そのうちその深さを利用し、誰もが次から次へと処理に困るものを投棄するようになる。そんなある日空の上から「おーいでてこーい」という声とともに石が落ちてくる、という内容だ。いつか自分に返ってくる所業を、我々現代人も繰り返してはいまいか?

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Text by 冠ゆき