「宇宙軍」創設、トランプ政権の狙いは? 中露との争い、20年大統領選……

Evan Vucci / AP Photo

◆宇宙に浮かぶ人工衛星が米軍の要
 トランプ政権が「宇宙軍」の創設を急ぐ背景には、現代のアメリカの軍事行動が、大きく人工衛星に依存しているという現状がある。ミサイル防衛、兵器の誘導、通信、偵察と、近代戦のあらゆる軍事行動は衛星の働きに依存している。今や世界中の民間活動にも不可欠となったインターネット通信網も、もともと軍事利用のためにアメリカで開発されたものだ。これも人工衛星なくしては成り立たない。

 対する中国、ロシアといったアメリカの“仮想敵国”は、虎視眈々とアメリカの人工衛星を狙っているとされる。中国は2007年に自国の老朽化した気象衛星をミサイルで撃ち落としたが、ペンス副大統領は9日の演説で、これを「中国の挑発的なデモンストレーション」だと非難。こうした人工衛星への直接攻撃だけでなく、遠隔操作による人工衛星へのジャミング(電波妨害)の脅威も増している。今や、アメリカの軍事力を削ぐには宇宙への攻撃が最も効果的であり、それに対抗する本格的な宇宙防衛と新技術の開発が急務だというのが、宇宙軍創設推進派の主張だ。

 一方、民主党議員を中心とした反対派は、宇宙軍の創設には莫大な軍事予算を必要とし、国防総省と防衛企業に新たな利権構造を生むだけだと主張する。政権内のマティス国防長官も、これまでは宇宙防衛の必要性は認めつつ、空軍内に宇宙を担当する部隊を組織すれば事足りるというスタンスだった。 米リベラル系メディアの一部には、既に「宇宙軍」を荒唐無稽だと揶揄する論調も出始め、つば競り合いが始まっている。

◆選挙対策という見方も
 トランプ大統領があくまで「宇宙軍」にこだわるのは、政治的な動機からだという指摘も多い。トランプ氏の選挙対策陣営は既に2020年の次期大統領選の準備に余念がないが、宇宙軍創設のタイムラインがその2020年に設定されているのは偶然だろうか? トランプ陣営は、ペンス氏の発表があった9日、支持者たちにEメールを一斉に送り、陣営の選挙グッズに使う「宇宙軍」をモチーフにしたロゴを、6つのデザイン案から選ぶよう呼びかけた。いずれも「SPACE FORCE – VOTE NOW」と、宇宙軍創設をトランプ氏の政策の目玉としてアピールするロゴだ。「MARS AWAITS(火星が待っている)」というキャッチコピーの案もある。

 ワシントン・エグザミナー誌は、宇宙軍創設の動きの背後で、防衛産業が活発にロビー活動を展開していると指摘する。同誌は、たとえ宇宙軍が実際にアメリカの防衛力向上に寄与しなくても、防衛産業が巨額の利益を得るのは間違いないと主張。「真の勝者」は、ボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンといった巨大防衛企業になるだろうとしている。実際、これらの企業が、昨年は合計6500万ドル以上、今年もこれまでに3500万ドル以上を関連のロビー活動に支出しているというデータがある。

 新たな軍の創設には議会の承認が必要だが、ペンス副大統領は、既にペンタゴンとホワイトハウスが協力して法案作成に取り掛かっていると述べた。ただ、今年11月には中間選挙が控えており、上下両院のパワーバランスが変わる可能性もある。法案が早期にまとまっても、すんなり通るかは未知数だ。

 上述のザ・ヒル紙への寄稿記事で宇宙軍創設に賛成するマーク・ウィッティントン氏は、当面の宇宙軍は地上から宇宙兵器を遠隔操作して人工衛星を防衛する形になるが、数10年先の未来には、合衆国宇宙軍の制服を着た兵士たちが宇宙船に乗って戦うようになるかもしれないと書いている。そんなSFチックな未来図が現実となれば、トランプ大統領の功績として語り継がれることになるかもしれないが……。

Text by 内村 浩介

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