米朝会談、最大の勝者は中国 日韓は得るものなし 米メディア分析

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 12日、アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による、初の首脳会談が行われた。北朝鮮が非核化に取り組むことが確認されたが、そのタイムテーブルは明確にされなかった。具体性の乏しい結果に加え、トランプ大統領が米韓合同演習を中止すると述べたことで、最大の勝者は中国だと、米メディアは批判的だ。

◆あいまいな共同声明に中国大満足
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、中国は米朝会談においてその国益が軽視されるのではないかと心配していたものの、予期せぬ望ましい結果になり喜んでいると述べる。北朝鮮の非核化のための合意の表現はあいまいで、手段や達成時期の詳細も明らかにされなかった。これにより、中国は今後アメリカ、北朝鮮、韓国の交渉に直接的に関われるよう圧力をかける時間ができた、と中国研究者は述べている。

 中国にとって北朝鮮は重要な緩衝国だ。核・ミサイル開発への罰としてアメリカとともに北朝鮮に制裁を課してきたとはいえ、中国は北朝鮮に対する影響力を維持したいと考えている。今後中国が避けたいのは民主的でアメリカの同盟国となる統一朝鮮の出現であり、望むのは韓国における米軍の縮小だ。核兵器とミサイル実験の凍結と引き換えに、米韓合同演習を中止するという予期せぬトランプ大統領の発言は、習近平主席を勢いづかせただろうと識者たちは見ているという(WSJ)。

 ニューヨーカー誌も、シンガポールからのニュースを、中国ほど喜んだ国はないだろうと述べる。中国は以前から近隣諸国を威嚇するような軍事演習を止めるようアメリカに求めてきた。米シンクタンク、外交問題研究所のエリザベス・エコノミー氏は、中国は自らの手を煩わせることなく最も求めていたものを手に入れ、ほっとしていると述べている。

◆日韓がっかり。同盟国を犠牲者に独裁者を利する
 勝ち点1を得た中国とは対照的に、地域の主要同盟国の日本は欲しいものを全く得ることができなかったとブルームバーグは述べる。拉致問題への対応について正恩氏はなにも約束せず、弾道ミサイルに関しても何の制限も申し出なかった。

 同じく同盟国の韓国も、米韓演習に関するトランプ氏の心変わりに、不意打ちをくらったようだとブルームバーグは述べる。米韓当局者は、事前に軍事演習停止の計画が文大統領に連絡されていたかは確認できないとしており、匿名で答えた韓国大統領府の報道官も、政府はまだトランプ氏の発言の正確な意味、または意図を理解しようと努めているところだと話している。ニューヨーカー誌によれば、トランプ氏はさらに韓国からの米軍の撤退にも触れたという。

 オーストラリア戦略政策研究所のマルコム・デイビス氏は、トランプ外交は、中国、北朝鮮、ロシアに間違ったメッセージを送っているとし、残忍な独裁者に今回のような約束をする用意があるなら、トランプ氏は同盟国からの安全保障上の信頼を維持できないだろうと批判する(ブルームバーグ)。

 ニューヨーカー誌も、軍事演習を停止し、韓国からの米軍引き上げに言及することで、トランプ氏はアジアの同盟国の不信感を高めることになると警鐘を鳴らす。結局、同盟国はアメリカの地域における役割と、自らの中国との関係を再考せざるを得ない。トランプ氏にとっては正恩氏と会うこと自体が目的だったのだろうが、その発言と行動の尻拭いをさせられる側にとっては、米朝会談はこれから待つ試練の始まりにすぎないと述べている。

◆やはりキーマンは中国 どうなる非核化?
 WSJによれば、トランプ氏はレポーターたちに、平和条約におけるアメリカ、韓国、北朝鮮の交渉に中国を参加させることをサポートすると述べている。中国は米朝の平和条約に関与するのみならず、北朝鮮への経済的援助でも影響力を保持しようとしている。

 さらに、核放棄となった場合は、中国は北朝鮮の核施設査察におけるリーダー的役割を求めていると識者は指摘している。カーネギー清華グローバル政策センターのZhao Tong氏は、中国は北朝鮮と特別な関係を築いており、米英仏の査察官よりも中国の査察官を信頼すると述べる。よってもし検査が始まれば、中国は間違いなく非常に重要な役割を果たすことになるとしている(WSJ)。

Text by 山川 真智子