武力は必要なし、北朝鮮の核を止める方法 3人の専門家のアイデアとは

Ahn Young-joon / AP Photo

【東京・AP通信】 もし米国が北朝鮮を攻撃したら、世界は新たな核戦争に突入しかねない。しかし交渉では解決できないだろう。北朝鮮の指導者、金正恩がたとえ何か公約したとしても、それが守られることはないだろう。そして、中国。この国がもっと手助けしてくれればいいのだが!

 多くの人はこのように考え、絶望的になって肩をすくめてしまっている。北朝鮮は、米国全土を攻撃できる能力を持つ核ミサイルの開発に向け急速な進歩を遂げているとみているからだ。

 しかし米政府は、あらゆる対策を試みたわけではない。

 以下、米国は北朝鮮に関して政治的な意味で独自性を発揮できるかについて、3人の専門家の意見を紹介する。

 いずれも、戦火を交える必要性はないとしている。

◆抑止力:米国にとって手慣れたゲーム
 抑止力とは、敵に対し軍事行動を起こしても意味がないと思わせることだ。金正恩自身、この力をうまく利用していることは実証済みである。

 核戦略・不拡散の専門家であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のヴィピン・ナラング(Vipin Narang)教授は、このことを米政権は理解するべきだと考えている。

 「今回の核プログラムは、北朝鮮がとりわけ体制変化や侵攻、軍縮といった特定の行動を抑止する能力を拡大、もしくは向上させていないという主張はただの現状否定で、差し迫る危機を直視するものではない」(ナラング教授)

 米国がかつて抑止力というゲームを実践したという事実は、明るい材料だ。

 「米国は抑止力の扱い方を心得ている。中国やソ連でこれを実践し、冷戦中は西ドイツや欧州を安堵させることができた。北朝鮮で同じことができない道理はない。金(委員長)は変わり者でも非合理的な人物でもない。戦略的かつ国内の動機には反応してくるだろう」

 ゲーム遂行には2つの要素が必要だが、現在はこれが欠けているとナラング教授は考えている。それは、ドナルド・トランプ大統領政権から北朝鮮への理路整然とした、まとまりのあるメッセージと、米国の地域同盟国に対する強力で信頼のおける説得材料だ。

 北朝鮮の核兵器やミサイル実験は、米国からの攻撃を回避するとともに、米国、日本、韓国、さらに米国の同盟国ではないものの中国との間に不調和を作りだすことを目的としている。もし韓国や日本が米国の北朝鮮への対処能力に疑念を感じるとしたら、両国は単独での戦略を追求し、さらには自ら核兵器開発を検討する圧力につながるだろう。

 さらに、トランプ大統領による「炎と怒り」の脅し文句からレックス・ティラーソン国務長官による融和的な発言をみてもわかるように、ホワイトハウス、国務省、国防省から異なるメッセージが出されているため、北朝鮮は相手の弱みとみなす部分を利用するか、起こるかどうかわからない侵攻を恐れる前に能力増強を図り迅速に行動しようとする動機をいっそう持つようになる。

 「そのため、この不調和が継続する限り、明白かつ効果的に抑止力のポジションを作りだすのは非常に困難になる。私がみるところ、今後の対応は、抑止力行為を実践しつつ同盟国に再確認しておくのと同時に、交渉に向けたチャンネルを常にオープンにしておくことのようだ」

 さらにもう1つ。それはツイートの表現のトーンダウン。

 「韓国は北朝鮮との『融和政策』を打ち止めにするよう、水素爆弾実験が行われた後にトランプ大統領がツイートしているが、北朝鮮は戦略がうまくいったと喜ぶだけだ」

◆中国の仕事ではない
 北朝鮮に核兵器開発を諦めさせようとするこれまでの取り組みは、中国に過度に依存しつつ、いくらかはロシアにも頼る形で行われ、それによって制裁が発動され政治的圧力が課されてきた。この手法は、トランプ大統領が心底、賛同しているようだ。大統領は9月3日の核実験直後に、北朝鮮が「中国にとっての大きな脅威、そして迷惑な存在になった。北朝鮮を支援しようとしているのにほとんど成功していない」とツイートした。

 しかし中国およびロシアの国益は、米国とは異なる。問題解決の負担を両国に転嫁すれば米国のリーダーシップと統制力を損なうと、ジョンスホプキンス大学高等国際問題研究院の上級研究員で、1990年代の北朝鮮による核兵器開発プログラムでの危機に対処する戦略を立案した元国務省高官のジョエル ・ウィット(Joel Wit)氏は述べている。

 「中国は最善の状況下において、北朝鮮に対し限定的な圧力と外交的な接触により側面支援をすることができる。しかし、これまで米国が望むことをすることはなかったし、今後もそれはないだろう。米国が望むのは、圧倒的に大きな圧力を作り出して米国のために問題を解決してくれることだ」

 ウィット上級研究員によると、たとえ中国が共同歩調をとってもうまくいかないとみている。「体制にとって明白な脅威を目の当たりにしたら、北朝鮮の人々は倒れ込んで死んだふりなどしないだろう。きっと激しく対抗してくる」

 さらに続けて、もし北朝鮮を自制させることが主に中国の問題だと主張するのなら、トランプ政権は「中国の協力確保に向けた見通しを実質的に何も示していない」という。北朝鮮はすでに米中間にくさびを打ち込みつつあり、「WMD(大量破壊兵器)というゴールに向けたレース」が始まっていると彼はみている。

 米国は中国を非難するのではなく、問題の核心は米・北朝鮮間にあることを受け入れ、自ら着実に主導していくべきだと彼は考えている。

 「この国には良好な選択肢がないという考えは、誰もが前向きに動くことにつながる。米国が直面しているほぼ全ての外交課題はこれと同じだと言えよう。しかし、こうした運命に任せるような態度がここ10年の米外交で広くみられたため、現在このような事態となっているのだ」(ウィット上級研究員)

◆取引の手腕
 もし米国が望みのものを得ようとするなら、それが何かを知る必要がある。そして、それを手に入れるためには、おそらく何かを諦めなくてはならないだろう。

 韓国・ソウルにある延生大学校のジョン・デルーリ(John Delury)准教授(中国研究)は、今後の最も現実的なアプローチは「対話、交渉、同意」の3段階になると考えている。

 「金正恩もしくは彼の上級顧問と話をしなければ、交渉相手の存在のほか、その肩書、相手の希望でこちらが提供できること、見返りとして得られるものを知ることができない。次に交渉に移る。これは短期間で、リスクを軽減し、敵対意識を少なくし、さらにはわずかだが信頼関係を構築する」(デルーリ准教授)

 米国は、注力する分野を明瞭、明確にすべきだ。交渉により、ミサイルや核実験の一時中断、核兵器の製造凍結、核査察官の派遣、透明性の向上に向けて動きだすだろう。核不拡散の公約も求めるに違いない。

 お互いがいくらか妥協し合わなくてはならないとデルーリ准教授は強調している。

 「複数の要素について、米国やトランプ政権にとっての関心事項、韓国や日本と緊密な調整をすべき事項のうち何を実行し、何を控えるかを検討しなくてはいけないだろう」

 北朝鮮は、ある種の安全保障および朝鮮半島からの米国による核の脅威の撤廃を求めると主張している。いずれも取りかかりのテーマとして適切なようには思えないが、米韓共同の年次軍事演習の規模縮小もしくは中止という、北朝鮮が求めているもう1つの要望リストについては、少なくとも交渉の議題となるかもしれない。

 准教授によると、長期的には、米国は「問題の真の核心」に直接的に対応しなくてはいけないという。それは、米・北朝鮮関係を根本的に変化させる政治問題の解決への取り組みでもある。

 「適切なフレーズが見つからないのなら、これを『和平交渉』と呼ぶことにしよう」

 厳密に言えば、両国は1953年、平和条約ではなく停戦協定により朝鮮戦争を終えたときから交戦状態にある。

 デルーリ准教授によると、交渉は 「経済協力にも深く関与するものでなければならない。なぜなら、金正恩にアピールできる唯一の現状変革は、北朝鮮がただ安全であることだけでなく、繁栄することであると思われるからだ」

 希望的観測だが、政治・経済面での関与がなされると、時間はかかるが北朝鮮の独裁統制が落ち着く方向に作用するのではないか。しかしその交渉プロセスでは間違いなく、両国で複雑な感情や抵抗を呼ぶだろう。

 「お手軽な回答、迅速な解決策、特効薬などないのは事実だ。関係改善に向けた取り組みをすると決めたとしても、それは困難で、時間がかかる道のりとなるだろう」

 「そのため、北朝鮮問題に対しては現実的であることが賢明だ。しかし現状レベルの運命論は、良好なアプローチの採用という意味で逆効果を招いてしまう」

By ERIC TALMADGE
Translated by Conyac

Text by AP