米韓間に亀裂……トランプ大統領が韓国の「宥和路線」を非難 FTA破棄検討も

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 北朝鮮が3日、過去最大規模の6回目の核実験を行ったこと受け、トランプ大統領が韓国の対北「宥和路線」を批判するツイートをしたことが、複数の米英メディアで取り上げられている。核実験直前には、トランプ政権が米韓自由貿易協定(FTA)の破棄を検討していると報じられており、北朝鮮危機の重大局面を迎えて米韓関係に亀裂ができつつあるという見方が強い。軍事的同盟関係にある両国の対立は北朝鮮を利するだけだと、識者らが警告している。

◆対話にこだわる韓国を批判
 トランプ大統領は3日、北朝鮮の核実験を受けて、Twitterにコメントを連投。その中で「韓国は、私が言ってきたように、北朝鮮との宥和的な対話はうまくいかないと気づきつつある。彼ら(北朝鮮)は、一つの事しか理解できないのだ!」とツイートした。

 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、これを「ソウルの“宥和政策”をツイッターで非難した」と解釈し、「トランプ氏は韓国のリベラルな新政権へのフラストレーションを噴出させた」としている。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)も、トランプ大統領の「集中砲火の犠牲になったのは、意外な相手だった。長年のアメリカの同盟国である韓国が、平壌に対する“宥和政策”で非難された」と書く。

 韓国新大統領のムン・ジェイン氏は、北朝鮮への宥和政策を掲げて選挙戦を勝利した。相次ぐミサイル発射と核実験に対しても、あくまで北との対話を主張し、トランプ大統領がたびたび示唆する軍事的解決には否定的だ。ワシントン・ポスト紙(WP)の韓国系記者によるオピニオン記事は、米国による北朝鮮への先制攻撃は「最悪のオプション」だと断じる。そして、「北朝鮮への核施設への攻撃は、どのような形であっても韓国にある米軍基地と民間目標への攻撃に結びつく」とし、戦争になれば直接的な被害を受けるのは韓国だと、韓国政府と国民の立場を代弁する。

◆韓国は北への片思いを終わらせるべき
 オバマ前大統領のアドバイザーを務めたコリン・カール氏は、「本来ならば東アジアにおける民主主義の同盟を再確認するべきなのに、トランプは逆のことをした」(FT)と、トランプ大統領の韓国批判を非難する。そして、トランプ政権が示唆する予防戦争について、「今戦争を行うというシグナルを送っているのは、アメリカ人ではなくアジア人が優先的に死ぬことになるからだ」とその真意を読んでいる。韓国側としては、当然自分たちが犠牲になることは受け入れられず、このままでは両国の亀裂は深まるばかりだというのが多くの識者の意見だ。

 ムン・ジェイン政権が北に宥和的だというのが、そもそも的外れだという意見もある。元国務省高官で核不拡散の専門家、ロバート・アインホーン氏は、「ムン氏は、実際にはアメリカが行ってきた最大限の(北への)圧力と強い言質に、非常に協力的だった。彼はこれまでに実際に宥和的なことは何もしていない」とNYTにコメントしている。

 一方、WPは、ムン大統領は、南北関係を改善し、ミサイル発射実験を受けて昨年2月に閉鎖された南北共同開発地区の開城(ケソン)工業団地の再開や、韓国から北朝鮮への観光旅行の再開などを目指しているのは確かだと指摘する。そのうえで、「しかし、水爆を持っている北朝鮮はパートナーではない」と、「北朝鮮への人道支援や米軍との合同軍事演習の縮小を主張する周囲のアドバイザーたちと袂を分かたなければならない」としている。そして、「対話には誰も反対しない」としながらも、北側が対話を拒否している現状を指摘し、「ムン政権の平壌への一方的な恋愛関係は終わらせなければならない」と主張する。

◆米韓FTA破棄で亀裂は決定的に?
 トランプ大統領の韓国批判の背景には、米韓FTA破棄を目指す政権の思惑が絡んでいるようだ。北朝鮮の核実験が明らかになった直前に、米主要メディアが、トランプ政権が米韓FTAの破棄を真剣に検討していると報じた。トランプ大統領は、対米貿易黒字を続けている韓国との「不公平な貿易」が、特に米自動車産業や鉄鋼業に大きな打撃を与えているとしている。

 韓国は自国に有利な「保護主義的」な米韓FTAによって、「アメリカの労働者と企業を騙している」というのがトランプ大統領の見方だ(NYT)。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏にとって、米韓FTAの破棄は、TPP脱退と並ぶ優先的な公約だと言っていいだろう。ただ、多くの識者は、北朝鮮危機に直面している今、協調姿勢が不可欠な韓国と経済問題で対立するのは、自由主義陣営の仲間割れを望む北朝鮮と背後にいる中国を利するだけだと指摘している。

 一方で、韓国の「対話」への固執は、同じく対話路線を主張する中国との接近に結びつくという見方もある。FTは、米韓の不和は、歴史的にも経済的にも結びつきが強い韓国を長年自国の陣営に引き入れようとしてきた北京に歓迎されるだろうと書く。中国の識者も、中国は、北朝鮮問題では対話を最優先しており、その点で同じ方向を向いている韓国と接近するチャンスだと指摘する。これに対し、WPのオピニオンは、「ソウルとワシントンが争っている時間はない」と、米韓が共同戦線を張らなければ目前の危機は解決できないとしている。

Text by 内村 浩介