アメリカの大学生、過去最もリベラルで政治に強い関心 行き過ぎて表現の自由を抑圧も?

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の高等教育研究所(Higher Education Research Institute: HERI)の調査によれば、全米で2015年に入学した大学1年生は、調査開始以来最も政治的活動に関心を持っていることが分かった。米メディアは、若者の政治、社会に対する意識の高まりに注目している。

◆大学1年は自称「リベラル」が増加
 この調査は1966年から毎年行われており、今回は2015年秋に全米の4年制大学に入学し、フルタイムで通う14万1189人の大学1年生から回答を得た。調査によれば、回答者の約3分の1が、自分は「リベラル」または「極端なリベラル」としており、1973年以来最高となった。

 調査では、大学1年生が政治への関与、また抗議活動への参加に強い関心を持っていることが明らかになった。約9%が、学内での抗議活動に参加する可能性は非常に高いと答えており、これは2014年の6%より増加し、調査始まって以来の高い数字だ。また、40%が地域のリーダーになることは「必須」または「非常に重要」と回答し、約4分の3が困っている人を助けるのは重要な目標だとしており、どちらも過去最高となっている。統計を用いて政治、経済、スポーツを分析するウェブサイト『FiveThirtyEight』は、「若いアメリカ人はナルシスト、または世界に無関心」という見方に反する結果となったと述べている。

◆選挙にも影響
 今回の調査では、大学生の間に選挙に行くつもりだと答えた大学1年生は、2014年より10%増えて60%となった。同じ調査の2010年の報告によれば、選挙権のある大学1年生の75%が2008年の大統領選で投票しており、リベラルな大学生からの票がオバマ大統領誕生の大きな後押しとなったと見られている。タフツ大学のケイ・カワシマ-ギンズバーグ氏は、大学では投票を呼び掛ける活動が多く行なわれており、同じ年齢層でも大学生のほうが、そうでない者より投票に行く割合が高くなると指摘する(FiveThirtyEight)。

 アトランティック誌は、大学の学費負担の軽減、人種や差別、移民、銃による凶悪事件など、大学生にとって重要な問題が、今年の大統領選でも注目を集めていると指摘し、候補者たちもこれらの問題に対応した公約を打ち出し、学生票の取り込みを狙っていると述べる。民主党のバーニー・サンダース候補が唱える大学授業料無償化、ヒラリー・クリントン氏が約束するキャンパス内での性的暴行の撲滅などがその例だ。革新的、リベラルなプラットフォームに同調する大学生が、大統領選にかなりのインパクトを与えるだろうと、同誌は見ている。

◆表現の自由はどこへ?
 一方、リベラルさを重視するあまり、表現の自由の理念を忘れてしまう大学生たちに、警鐘を鳴らすメディアもある。

 ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)によると、今日の大学1年生は全般的にリベラルな考えを持つにもかかわらず言論の自由の規制を求める傾向があり、最近では、大学の卒業式でスピーチする来賓の招待を取り消す、評判の良くない考え方を持つ者によるプレゼンを妨害する、不愉快な内容になるかもしれないスピーチの前に「事前警告」を付けるよう求める、といった行動に出て物議を醸しているという。数字的に見ても、学内での人種、性差別的スピーチの禁止を支持する者は、1992年の58.9%から、今年は70.9%に増加。また、大学が過激な演説者を締め出す権利を持つべきという意見は43%となり、1971年の25%から上昇しているという。

 HERIの今年の調査報告を執筆したリーダーであるケビン・イーガン氏は、軽蔑的なスピーチが暴力を引き起こし、聞くものを傷つけるかもしれないという学生側の懸念は理解できるとしながらも、学生たちが自分の信条に反する考え方に触れる機会を失わないよう、大学側は注意すべきだと述べている(LAT)。

Text by 山川 真智子