アメリカが豪の次期潜水艦に日本の「そうりゅう型」を希望する理由 日本の面子まで配慮?

 現在、オーストラリア海軍の次期潜水艦計画は、日本の官民連合、ドイツ、フランス企業からの最終提案を受け、共同開発・生産のパートナーをいずれかに決定する段階にある。ターンブル豪首相は先週、就任後初の訪米を行ったが、豪メディアによると、その際行われたいくつかの会談でも次期潜水艦が話題に上ったそうだ。米政府の公式の立場は、豪政府の決定を尊重するというもので、オバマ大統領を始めとする政府要人はいずれかに肩入れする発言を控えている。だが、米政府高官や米軍幹部が日本の潜水艦の採用を望んでいることは、さまざまな形で表現されており、豪政府にとっても思案材料となっているようだ。

◆米政府が日本の潜水艦の採用を望む4つの理由とは
 オーストラリアの次期潜水艦計画をめぐっては、日本、オーストラリア、アメリカそれぞれに思惑がある。日本にとっては、積極的平和主義を推進する上で、オーストラリアとの安全保障・防衛協力を深めることは重要だ。豪による日本の潜水艦の採用はそれを前進させるだろう。それはアメリカの意向でもある。両国はアジアにおけるアメリカの主要同盟国だ。

 豪オーストラリアン紙は、ある米高官が同紙に語ったところとして、米政府が日本の「そうりゅう型」潜水艦の採用を豪政府に望む理由を4点に分けて伝えている。最初の3つは、「そうりゅう型」の採用で期待できることについて述べたものだ。

 第1の点は、米軍の分析では、3者のうち日本の「そうりゅう型」が採用されれば、オーストラリアに最大の戦力を与えるだろう、とされていることだ。オーストラリアの戦力強化はアメリカにとって重要な関心事である。オーストラリアンは、アメリカは自国の同盟国が、同盟全体での戦力を強化することを期待しており、アジアでは主にオーストラリアと日本にそれを望んでいる、としている。

 アメリカは世界各地に戦力を同時に投射しなければならず、予算の制約のある中、アジアでの中国の軍事的台頭に単独で対抗することは難しくなっている、というのが同紙の見方だ。米戦略国際問題研究所(CSIS)はオバマ政権のアジア太平洋地域へのリバランス(再均衡)戦略について検証した報告書を20日発表した。中国の著しい軍拡と、アメリカの防衛予算の厳しい削減を考慮すると、「現行規模のアメリカの戦力配置では、地域の軍事力のバランスはアメリカに不利に転じつつある」と述べているのを、オーストラリアンは傍証として引用した。

 第2に、「そうりゅう型」であれば、米豪の潜水艦、日豪の潜水艦それぞれの間で、最良の相互運用性がもたらされるとアメリカは考えている。相互運用性とは、迅速な協力を可能にするため、装備や手続きにおいて共通性、互換性を持たせることである。

 第3に、「そうりゅう型」の採用によって、日米豪3国間の戦略的協力が大いに強化されるだろうとアメリカは考えている。日米豪いずれの政府にとっても、このような協力を強化することは政策目標である、とオーストラリアンは語る。

 第4の点だけは他と異なり、期待ではなく米政府の懸念となる。中国政府が、日本の潜水艦の採用に激しく反対しているので、もし日本が選ばれなかった場合、日本政府にとっての恥、中国政府にとっての外交的・戦略的勝利とみなされることになるだろうと米政府は考えている、と同紙は語っている。

◆米政府高官も米軍幹部も、日本の「そうりゅう型」が他より優れていると
 CSISアジア兼日本チェアのマイケル・グリーン上級副所長と、かつてアボット前首相ら豪首相2人の国家安全保障アドバイザーを務めたCSIS客員研究員アンドリュー・シアラー氏らによる連名の記事が、米外交専門誌ナショナル・インタレストのウェブサイトに17日掲載された。ターンブル首相の訪米に先立って、米豪同盟のさらなる強化のため、両国間で詰めておくべき問題について提言したものだ。その中で、日米豪の3国関係の強化や、日本の潜水艦の採用が、重要な案件として挙げられている。

 ターンブル首相とオバマ大統領は、安倍首相が最近成立させた安保改革案を考慮し、首脳会談で、両国が日本とより緊密に協力する方法について話し合うべきだとしている。これまでにも日米豪には緊密な協力の実績があるが、集団的自衛権の行使が容認されたこと、武器輸出の制限が緩和されたことで、3国間の安保協力と、軍の共同作戦能力の強化の重要な機会が開かれた、と記事は述べる。

 それらの中で最も差し迫った問題が、オーストラリアの次期潜水艦選定だという。米政府がこの件で中立的姿勢を取っているのは妥当なことだが、米政府高官も、米軍幹部も、日本の「そうりゅう型」の戦力が他より優れていることには疑いを持っていない。また、アメリカの戦闘システムを備えた、相互運用性のある日豪の通常動力型潜水艦の艦隊から得られる、アメリカとアジア地域にとっての長期的な戦略的メリットに関しても疑いを持っていない、と記事は語る。

◆日本の潜水艦でなければ、アメリカが最新鋭の戦闘システムを提供しないのではないか
 米政府、軍が、日本の潜水艦の採用を豪政府に望んでいるとして、それが選定に影響を与えうるだろうか。

 次期潜水艦には米豪共同開発の戦闘システムが採用されることになっている。オーストラリアンによれば、この戦闘システムが大きな鍵になりうるらしい。豪政府内では、日本以外の潜水艦の採用が決まった場合、アメリカが最先進の戦闘システムの技術供与に前向きでなくなるのではないか、という深刻な疑いがあるそうだ。アメリカに対するこの疑念が、日本にとって有利な切り札として浮上している、と同紙は語る。アメリカは、日本の潜水艦が採用された場合には、自国の最新鋭の戦闘システムを提供することを明言しているという。

 アメリカがどの技術を最終的に提供するかは、どの国の潜水艦が選ばれるかによって異なりそうである、とオーストラリアンは語っている。つまり、最新鋭のものではない戦闘システムが提供される可能性があるということだ。

 オーストラリアンによれば、ドイツが中国の産業スパイ活動から、極めて重要な防衛技術を守ることができるかどうかについて、アメリカは大きな疑いを抱いているとの情報があるそうだ。

◆ドイツが受注争いで後退?
 ロイターによると、日本、ドイツ、フランスの受注争いで、ドイツが後退し、候補は日本とフランスに絞られつつある、と複数の情報筋が語っている。

 オーストラリアは次期潜水艦に4000トン級を計画している。「そうりゅう型」がまさに4000トン級だ。ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)は、2000トン級の「214型潜水艦」を大きくし、4000トンにする計画だという。しかしこれは技術的に難題だと専門家は指摘しているそうだ。その技術上の懸念から、ドイツは支持を失っているという。

 ただしロイターは、うわさを安易に信用すべきではないとの意見も伝えている。

 豪政府による決定は、オーストラリアンによると、今年半ばには発表されるはずだという。ただしその際も、選考対象を2国に絞り込むだけにとどまるかもしれないと情報筋が示唆しているそうだ。自国に有利なように交渉を進めるためである。

Text by 田所秀徳