いまなぜドナルド・トランプなのか? 暴言・失言によって逆に支持率アップ…その裏側とは

 不動産王として有名なアメリカの実業家、ドナルド・トランプ氏は、2016年の大統領選挙に出馬を表明。オバマ大統領や移民に対する暴言、失言などが物議を醸しているにも関わらず、共和党候補者としては一番人気を保っている。全米に吹き荒れるトランプ旋風の背景には一体何があるのか。

◆支えているのは誰?
 まず、どういった人々がトランプ氏を支持しているのだろうか。BBCによると、トランプ氏の支持者は、年配で、より経済的に豊かではなく、より教育を受けていない層だという。政治コンサルタントのフランク・ルンツ氏による調査によれば、トランプ支持者は国の将来に悲観的、オバマ大統領と主流派メディアが嫌いで、イスラム教徒にも慎重だという。調査の回答者の20%は自らを中道的と称しており、65%が保守的、13%が非常に保守的と答えたという(BBC)

 カナダのトロント・スター紙は、トランプ氏を支持する有権者は、右寄りの白人低所得者層で、現在の政治システムに裏切られたと感じている人々だと説明。71%のトランプ・サポーターが、懸命に働き成功するという「アメリカンドリーム」は消滅したと感じているとする。同紙は、オバマ政権下で格差が拡大し、ミドルクラスの生活も苦しくなったとする識者の意見を紹介し、「偉大なアメリカを取り戻す」というトランプ氏の言葉が、不当に下層市民扱いされていると感じている白人労働階級の支持を集めていると指摘している。

◆暴言失言は有権者を代弁
 トランプ氏は、「オバマ大統領はイスラム教徒」、「メキシコ系移民は強姦犯」、「イスラム教徒は入国禁止」など、数々の暴言、失言を発してきたが、その人気は衰えることがない。そこには、実はそれらの発言が支持者の感じている本音に近いということがあるようだ。

 トロント・スター紙は、支持者の多くは、メキシコ人労働者から黒人大統領まで、自分たちと異なる人々に現在の苦境の責任があると考えており、それが極端な反テロ、反移民を叫ぶトランプ氏に共鳴する原因であると述べる。共和党のストラテジスト、ブルース・ヘインズ氏も、トランプ支持者は、テロ、自由貿易がもたらした雇用の変化、移民や社会の変化のため労働市場や文化が変わりゆくことに怯えていると述べる。同紙は「ドナルド・トランプだけが彼らの代弁者で、彼らが理解できる方法で語ってくれる唯一の人物だ」とトランプ人気を分析している。

 CNNは、トランプ氏は詳細な計画や公約を有権者に示しているのではなく、有権者のため声を上げる存在として自分を位置付けていると指摘している。また、無謀なテレビでの名人芸やソーシャル・メディアを使いこなすことで、怒れる有権者とつながっていると述べる。ワシントン・ポスト紙のマックス・エーレンフラウンド氏は、人は「大きなことを言う人」、「たとえ嘘でも、我々が抱える問題は、単純で簡単に解決可能といってくれる人」が好きであり、「自分と似ていない人」は嫌い、という点を指摘し、これらがトランプ氏の魅力をうまく説明していると述べている。

◆トランプ旋風は共和党にも責任が
 一方、共和党のふがいなさがトランプ旋風を許しているという見方もあるようだ。共和党内では、オバマ政権に批判的な白人の労働者コミュニティを取り込むという目的のために、トランプ氏は党を不当に利用しているという批判があるが、それを許したのは他でもない共和党自身だという見解だ。

 トロント・スター紙は、共和党はオバマケアの撤回など、達成できない約束をして保守層をがっかりさせ、低所得者層を優先する経済アジェンダの追及も拒んできた、と指摘。また、トランプ氏によるオバマ大統領が外国生まれでイスラム教徒だという陰謀説にも暗黙の了解を与え、ティーパーティー・ブームで当選した右翼に、共和党のリーダーシップが機能していないという考えを広めるチャンスまで与えてしまった、と同党の失態を上げる。CNNも、共和党支持者の反体制熱はトランプ氏の登場以前から始まっていたと指摘し、一般の共和党支持者は党の在り方に怒りを感じており、党リーダーへの信頼も薄らいでいると述べている。

 一方BBCは、忠実な共和党支持者には、トランプ氏の発言や行いは否定的に受け止められていることもあって、共和党選挙人のトランプ氏支持が、30~35%を超えることはないと予想。支持がばらけている間は優勢かもしれないが、候補者が絞られて来れば、勢いは収まるのではないかと述べている。

Text by 山川 真智子