国連の安保理が平和の障害に…なぜ改革はうまくいかない? 常任理事国の腹の中とは

 国連が創設されたのは70年前。その主要機関の一つである安全保障理事会は、国際平和と安全に責任を持つことを目的に作られた。しかし、理事会の構成や、常任理事国だけに与えられた拒否権の問題などで、その影響力の限界が指摘されており、創設70年を節目に、新たな改革が求められている。

◆世界の地政学的現実を反映しない安保理
 安保理は、常任理事国5ヶ国(中、仏、英、米、露)と、総会が2年の任期で選ぶ非常任理事国10ヶ国で構成されている。来年より、日本も非常任理事国となることが決まっている。

 インターナショナル・ビジネス・タイムズ(IBT)に寄稿した、インドの政治家で国連事務次長も務めたシャシ・タルール氏は、安保理は1945年当時の地政学的現実を反映し、現状に合っていないと主張する。同氏は、創設当時51ヶ国だった国連加盟国は現在193ヶ国となっているのに、安保理の理事国は11ヶ国から15ヶ国に増えたのみだと指摘。また、創設時のパワーバランスに重きが置かれ、世界人口の5%に過ぎない欧州が議席の33%を支配していたり、70年前に戦勝国だったという理由で常任理事国がその地位や拒否権を享受しているのはおかしいとし、改革が必要だと述べている。

 ドイチェ・ヴェレ(DW)のダニエル・シェシュケビッツ氏も、拒否権はロシアにしばしば悪用され、アメリカ、中国には妨害の道具として使用されると述べ、平和維持目的のための安保理が、大国の手の中で人質化していると批判する。

◆拒否権が平和の障害に、改革への試み
 実は1990年代から改革案として、日本、ドイツ、インド、ブラジルのG4と呼ばれるグル―プからの常任理事国入りや、任期の長い「準常任理事国」の新設など、さまざまな議論が行なわれてきた。しかし、いずれも国ごとの思惑や不公平感が壁となり、まとまることはなかった、とタルール氏は述べている。

 シリア問題で中露が拒否権を行使し、安保理が停滞に落ちいったことから、9月の国連総会の場で、フランスが「残虐行為や大量虐殺に関する決議には、常任理事国は拒否権行使を控える」ことを提案。日本を含む75ヶ国あまりが賛同したが、ロシアは拒絶し、米中も冷ややかだったという(ロイター、AFP)。

 10月には、リヒテンシュタインによって率いられたグループが、大量虐殺、戦争犯罪、人権に対する罪を止める、または防止することを求める「信頼性のある決議草案には反対を投じない」という「行動規範」を加盟国に提案し、日本や常任理事国である英仏を含む104か国が支持を表明した(AFP)。「行動規範」に拘束力はないが、拒否権の乱用を問題視する国々のポジティブな抵抗の表れとなったようだ。

◆なぜ進まない?アメリカの本音
 国連の改革が進まない理由は、次のような常任理事国の思惑を知ることで、ある程度理解できるのではないだろうか。

 フォーリン・ポリシー誌の編集者でアメリカン大学の助教授、デビッド・ボスコ氏がアメリカの安保理改革への本音を考察している。アメリカにとって現状維持が最高のオプションだが、改革の動きは止まりそうにないため、国力があるうちに、改革をリードするほうが得策だと述べる。

 同氏は、アメリカにとって最良のプランは、現在の常任理事国と非常任理事国はそのままにし、任期4、5年の「準常任理事国」枠を6ヶ国分新設することだという。アメリカは同盟国の日独とインドの常任理事国入りをある程度支持してきたが、日本を入れることは中国が受け入れないだろうし、欧州からこれ以上の常任理事国を望まない国々にドイツという選択はないため、これが最良だと日独に説得力を持って話せると見ている。結果として、拒否権を求めるG4諸国は喜ばず、小国は新設枠が少なすぎると不満を言い、国連界隈の人々は常任理事国だけが拒否権を維持することを批判するが、「だれも喜ばない、しかし皆が我慢して受け入れる」という事実が、アメリカにとってこの計画の最大の長所らしい。

 常任理事国の本音はアメリカと同様、自国の拒否権を守るため、多少の変更なら受け入れると言うものだろう。改革は進んでも見せかけだけで本質が変わらないのであれば、安保理の機能不全は治らない。結局のところ、改革の道は長く険しいものとなりそうだ。

Text by 山川 真智子