中国株バブル崩壊で金・石油価格急落 金の裏付けによる「人民元基軸通貨化」は夢?

 6月の中国株バブル崩壊に続き、7月から金・石油などのコモディティの価格が急落している。中国は金に裏付けられた人民元の国際基軸通貨化を目指して金備蓄を進めてきた。金価格が為替・株・金利などの影響や、工業原材料として実体経済力の影響を受ける現実に直面し、対応を迫られている。

◆中国経済の縮小で石油などのコモディティも急落
「世界の工場」として高成長を続けてきた中国だが、ここへ来て成長は頭打ちに来ており、政府主導で内需・サービス経済中心へと、構造転換に舵を切り始めている。中国政府はゆるやかな成長の維持と失速回避に努めるという難しい経済運営に当たっているが、次第にその影響が鮮明になってきた。製造業の縮小から、今年春には工業原料となる鉄鉱・貴金属価格や香港株式市場が下落、ブラジルやロシア、オーストラリアといった資源国の通貨下落へと波及した。同様に原油価格も、供給過剰によるダブつきに加えて、中国エネルギー需要の縮小から下落した。そして6月、中国株の劇的な下落が始まり、中国政府の捨て身の市場介入によって、歯止めがかけられたかに見えた。しかし7月27日には中国株がさらに暴落、世界的な株安となった。

 鉄鉱石や銅、原油などコモディティの市場価格が幅広く下落しているなか、ひときわ注目されたのが、17日、金地金価格が過去5年間で最低、24年ぶりの安値まで下落したことである。ブルームバーグ(7月23日付)は、「金価格の下落は、中国が6年ぶりに金備蓄量を公開したことに始まる」と指摘している。

◆中国の金備蓄の意味
 中国は世界一の金産出国で、2014年には460トンと、二位のオーストラリアの倍近く生産しているが、IMFへの金備蓄量の自己申告量は1,054トン、外貨準備高に占めるシェアはわずか1.1%で、欧米主要国に比べて桁違いに少ない。しかし国内大手商業銀行が金地金を香港経由で輸入して、国民の備蓄を促進し、公式統計の数倍の備蓄があると、かねてより言われている。

 フィナンシャルタイムズ(7月17日付)によれば、中国の金備蓄量は2009年の1,054トンから今年6月末の1,658トン(外貨準備高シェア1.6%)にまで増え、今や世界第六位の金備蓄量となっている。同紙は、中国が金を購入していることについて、「中国がドル以外に外貨準備を多様化する方策を追求していることを示している」「中国はIMFに人民元を公式基軸通貨として承認するよう積極的に働きかけてきた」と指摘。その裏付けとして、「金価格も他の金融資産同様、価格変動する。その分析に基づき、価格乱高下を導かないことを前提に、国内外のいくつかのチャネルから着実に金備蓄を進めてきた」という中国人民銀行談を報じている。

 ウォールストリートジャーナル(7月24日付)は、あるアナリストの「一部の投資家は、中国の工業統計と株価下落を誤って結び付けて、過度に気弱になっている。中国経済の健全さを示す新たな兆候はある」という談を紹介。今後ヨーロッパや日本の経済回復が進み、原料需要が増えればコモディティの価格上昇の可能性もあるが、一方で、価格競争で安値に戻る可能性もあると指摘する。

 エコノミスト(7月20日付)とワシントン・ポスト(7月25日付)は中国が金備蓄を進める戦略への懐疑を示唆。「アメリカ市場の回復で、ドル危機の回避投資先としての金地金価格上昇は頭打ち」(エコノミスト)、「高インフレ低金利、低インフレ低金利時代にのみ金価格は上昇」(ワシントン・ポスト)としている。

 コモディティ価格安などにより、FRBは短期利上げを9月以降に延期した。中国経済の成長減速の影響は、まだ株・為替・金利・コモディティ等さまざまな分野に及びそうである。

Text by 相庭烈