ワサビ栽培、海外で拡大中? チーズ、パンナコッタ…斬新な組み合わせも!?

 日本食ブームとともに、ワサビ栽培が世界に広がっている。栽培の難しい日本のワサビを、海外の生産者が創意工夫を凝らして地元の特産物にまで育て上げ、商業的成功を収めている。

◆日本のワサビの生産は減少
 ワサビは日本原産。生育には、11~14度程度の低い水温と、一年中変化の少ない流水が必要だ。広く流通しているものは水(または沢)ワサビと呼ばれ、水耕栽培される。すしや刺身の薬味として使用されるのは、その根茎部分だ。(日本大百科全書より)。

 イギリスのテレグラフ紙によれば、ワサビの需要は急増しているにもかかわらず、手間と人件費がかかることから、日本での生産規模は縮小しているらしい。日本からの輸入物に代わり、本物を求める海外のレストランや消費者への供給元となったのが、現地のワサビ生産者だ。

◆独自のやり方で広がるワサビ栽培
 イギリス南岸のニューハンプシャー州で栽培に乗り出したのが、『Wasabi Company』 のジョン・オールド氏だ。この地域は帯水層の上にあり、カルシウムに富むきれいな地下水が豊富。この水を使い、クレソンの水耕栽培が、150年ほど前から盛んだ。ある日、この地を訪れたシェフがクレソン畑を見て、まるでワサビ田のようだと述べたことから、オールド氏はワサビ栽培を思いついたと言う。日本には行ったことがない同氏だが、クレソン畑の周りに、ワサビ田の環境を整えることに成功。今では青々としたワサビの葉が、農園を埋め尽くす(テレグラフ紙)

 一方、オーストラリアのタスマニアでは、十数年前からワサビ栽培が始まっている。英BBCによれば、澄んだ水、清らかな海洋環境、化学物質を使わない牧草地が売り物のタスマニアは、ナチュラルな農産物の生産地として、近年人気を集めているという。地元出身のステファン・ウェルシュ氏は、試行錯誤を重ね、ワサビのハウス水耕栽培に成功。今では豪州唯一のワサビ生産者として、『Shima Wasabi』 のブランド名で、ワサビ関連製品を東南アジアにまで輸出する。また、生のワサビは『Tetsuya’s』 などのオーストラリアの超有名レストランで使用され、生産が国内外からの需要に追い付かないほどだという(Good Food)。

 バンクーバーの地元紙『The Province』によれば、カナダのブリティッシュ・コロンビア州では、『Pacific Coast Wasabi』 社がワサビを栽培。創業者ブライアン・オーツ氏が考案した「企業秘密」の温室栽培で、今では最高級のワサビをアメリカ、ヨーロッパに輸出している。

◆ワサビ利用もクリエイティブ
 さて、生産者たちが力説するのは、本物のワサビの味わい深さだ。イギリスのオールド氏は、生ワサビは高価なため、市販のワサビ(粉、パック入りワサビ)は、セイヨウワサビ(ホースラディッシュ)、マスタード、砂糖、着色料でできており、ワサビ本来の複雑な味わいはないと述べる。(テレグラフ紙)。

 タスマニアのウェルシュ氏は、ホースラディッシュの「背中をゴツンとたたくような」強い辛さに比べ、鋭く、甘みがあり、そしてまろやかなワサビの辛さは、「旧友からのやさしいハグ」のようだと形容。その香りを生かし、同氏のワサビは、地元のチーズ、フルーツのシロップ漬け、ビールなどに使われているということだ(Good Food)。

 オールド氏は、ワサビはパンナコッタなどのデザートに合うとテレグラフ紙の記者に説明。カナダのオーツ氏は、医薬品としての可能性にも注目している(The Province)。和食ブームで知名度を上げたワサビが、各国で進化を遂げる今、海外のワサビや関連商品が日本に逆輸入される日も、そう遠くないかもしれない。

◆意外な天敵も登場
 各地で成功したワサビ栽培だが、意外な天敵に悩まされることもあるという。イギリスのオールド氏によれば、ワサビ田には幼虫を狙ったカモが侵入し、ワサビを引き抜いて行くらしい。もっとも、「ワサビを狙って、オレゴン州では熊が、タスマニアではカモノハシが来る」と聞いている同氏は、カモのいたずらには目をつぶっており、抜かれたワサビを、せっせと元通りに植え直す日々らしい(テレグラフ紙)

Text by NewSphere 編集部