“言論弾圧”同然…韓国の産経前支局長起訴、海外報道も批判一色

 産経新聞の加藤達也前支局長が、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する名誉毀損容疑でソウル中央地検に起訴された件で、日本政府は9日、駐日韓国公使を通じて韓国政府に抗議した。これを伝えた欧米メディアも、揃って言論・表現の自由を侵害する一種の言論弾圧だとして、検察側を批判している。

 一方、韓国紙・朝鮮日報は、産経新聞を含む多くの日本メディアを「B級メディア」と蔑み、加藤前支局長の記事を「質が悪いごみ」と表現するコラムを掲載。「変態のようなサディズム傾向」など、最近の日本メディアを罵倒する言葉を連ねつつ、最終的にはやはり「報道の自由」の見地から、加藤前支局長を有罪に追い込むのは難しいとしている。

◆欧米各紙、そもそもの発端は韓国メディアと「ツッコミ」
 韓国検察当局が問題にしているのは、8月3日付の産経新聞に掲載されたコラムだ。韓国メディアなどが伝える起訴事実によれば、今年4月の「セウォル号」沈没事故に際して、朴大統領が事故発生時にある男性と個人的に密会していたため対応が遅れたという内容が、「証拠がなく、虚偽」であり、朴大統領を不当に中傷したという。

 しかし、欧米各紙は「加藤氏の記事は一部独自のソースからの引用を用いたが、主には既にネット上で入手可能な情報に基づいていた」(英・ガーディアン紙)、「加藤氏は記事の中で、ソースは韓国主要紙の朝鮮日報であると明示している」(ニューヨーク・タイムズ紙=NYT)などと、記事の内容はそもそも韓国の証券街での噂話に端を発した朝鮮日報などの報道を引用したもので、少なくとも加藤前支局長自身による「でっち上げ」ではないと指摘している。

 また、産経新聞が普段から韓国の反日政策に批判的な論調を展開しているため、「狙い撃ち」にされたという指摘も多い。例えば、ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は「(事故当日の)朴大統領の所在について報じた韓国メディアに対しては、何のアクションも取られていない」と記し、ドイツメディアのドイチェ・ヴェレ(DW)も、「噂話を最初に報じた朝鮮日報は罪に問われていない」とツッコミを入れている。

◆米政府も韓国の“言論弾圧”を批判
 こうした批判が渦巻く中、外務省の伊原純一アジア大洋州局長が9日、金元辰(キム・ウォンジン)駐日公使を呼び出し、起訴について「報道の自由と日韓関係の観点から極めて遺憾であり、事態を深く憂慮している」などと伝えた。金公使は本国に伝えるとしたが、「韓国の法律に基づいており、外交関係には関係がない」と検察の動きを擁護したという(NYT)。

 菅義偉官房長官は記者会見で、「報道の自由は民主主義国家においては最大限に尊重されるべきだ。それが国際常識だ」などと述べ、逮捕を経ずにいきなり起訴した韓国側の法の運用についても批判した(DW)。

 ガーディアン紙などによれば、アメリカ国務省のスポークスマン、ジェン・サキ氏も、この件について記者会見で問われ「アメリカは言論と表現の自由を支持する」と答えた。サキ氏は、アメリカ政府は過去に、韓国の言論に対する法の運用に疑問を呈したことがあるとも述べたという。

 WSJは、「韓国には1980年代までの軍事政権によって、言論の自由が抑圧された歴史がある。アメリカは、韓国が民主主義国家に転じた後も、国家保安法を用いて政府批判を弾圧していると非難したことのある国の一つだ」とサキ氏の発言を補足している。

◆朝鮮日報「変態のようなサディズム」と罵倒
 「言い出しっぺ」に名指しされている朝鮮日報は、起訴前の3日付のコラムで、『産経支局長を処罰してはならない理由』という皮肉を込めたタイトルで、加藤前支局長はじめ日本メディア全体を罵倒している。書き出しから「日本のB級メディアは我々が考えている以上に低質だ」と、感情的な筆致が印象的だ。

 加藤前支局長についても、朴大統領の「男女の問題」を記事で臭わせたとし、「女性をいじめることに快感を覚える」サディストと罵る。さらに、「最近日本のB級メディアの韓国攻撃を見ると、変態のようなサディズム傾向が漂うケースが多い。元従軍慰安婦のおばあさんを侮辱する政治家の発言しかり、女性大統領にけちをつける報道しかりだ。産経ソウル支局長の記事もその延長線上にある」と断じている。

 一方で、韓国の判例は幅広い報道の自由を認めているとし、記事がたとえ虚偽報道であっても、「支局長が虚偽であるころを知りながら報じた点を立証しなければならない」と、立件の困難さを認めている。また、同じく「大統領の恋愛」を語った野党議員がいたとし、「議員はおとがめなしで、産経支局長だけを起訴すれば公正性をめぐる議論は避けられない」と記している。しかし、引用された朝鮮日報自らの報道については一切触れていない。

 コラムは「質が悪いごみは無視するのが上策だ。町内のごろつきのような卑劣な挑発をまともに相手にしていたら、われわれの品格が低下してしまう」と結ばれている。

哀しき半島国家 韓国の結末 (PHP新書) [amazon]

Text by NewSphere 編集部