型破りの新法王は、バチカンに新風を吹き込めるのか?

 新法王となった翌日、フランシスコ1世は、コンクラーベのために泊まっていた施設に勘定をしに立ち寄った。質素な黒靴と、黒いバンドの腕時計をはめたまま、法王としての最初のミサへと向かう。夕食に向かう枢機卿を乗せたミニバンの車内には、「(わたしを法王になどして)諸兄を神さまがお許しになるといいが」とユーモア混じりに「兄弟たち」と歓談する新法王の姿があった……。

【法王のメッセージとは】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、新法王の型破りな初日をこのように報じた。同紙は、前法王のベネディクト16世が、壮麗な身なりを好み、博識を散りばめた説教を常としていたのとは好対照をなすと紹介。新法王が、清貧の誓いを立て、立身出世を遠ざけ、奉仕と教育への専念と浮世との結びつきを旨とする、イエズス会の出身であることを改めて思い出させるという。「フランシスコ」という法王名も、裕福な身分を捨て貧者のために尽くした聖者の名前であるという。
 総じてこうしたエピソードは、法王の個人的信条を超えた、カトリック教会全体、そして全世界の信者への「簡素・清貧・峻厳」に立ち返ろうというメッセージだと見られている模様だ。

 法王はこの日の最初のミサで枢機卿に対し、「ペトロが福音に基づいて教会を建てたように」、信仰を築かなければならないと呼びかけたという。「歩かなければ先には行けない。岩盤を礎にしなければ、砂上楼閣は崩れ去るのみ」という言葉には、現在のカトリック教会が直面している問題への危機感がにじむようだ。

【3つの課題】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、未成年者の性的虐待、資金洗浄、内部機密の流出と、それに伴う教皇庁の権力濫用疑惑に取り組む新法王にとって、鍵となるのは、「事態の把握」、「新国務長官の選出」、「司教の選出」の3点だと分析した。

 第1の「事態の把握」については、法王として、近々手にする文書に目を通すことから始まるという。これについて、内部事情通は「新法王はおそらく、「よく聴く」ことから始めるだろう」という、期待に満ちた発言を寄せた模様だ。

 第2の、バチカンのナンバー2の座に君臨し、実務面を取りしきる「国務長官の選出」については、なかでも喫緊の課題だという。「外部」から選べば、長く教皇庁に君臨してきた「インサイダー」に切り込む新法王の意気込みを雄弁に物語ることになるが、反面、最近の痛手から立ち直っていない組織をさらに混乱させかねないとアナリストは分析する。この点には、内部事情通であり、同時に法王の改革への希求を共有する人物こそがふさわしいとの見方が有力な模様だ。
 また、各長による全体会議を年に2度しか持たない教皇庁の現行システムを、より開放的に、せめて月に1度の顔合わせを持つようにするだけでも、新法王は、前法王を悩ませた混乱から救われるはずだとの事情通の談が報じられた。

 第3の、「司教の選出」も、法王が目指す改革を広大な教区に行き渡らせるためには見過ごせないポイントだという。しかしこの点についてはすでに、高位の枢機卿から、「優れた司教が集まるはずだ。法王がすべてを背負いこむことはない」という力強いエールが聞かれているという。

 海外各紙の報道は総じて、新法王の門出が、全世界に「バチカンへの新風」を感じさせたことを強く示唆した。この新風が勢いを弱めることなく、積もった汚濁を吹き飛ばすことができるのかに、世界12億人のカトリック信者の注目が集まっている。

Text by NewSphere 編集部