侍ジャパンと対戦する欧州代表 現地でプレーした日本人が見るスペイン選手の実力

スペインメディアに取材された時の筆者

2024年3月6、7日に行われる野球の国際大会「カーネクスト 侍ジャパンシリーズ2024」。

日本代表は、欧州代表と対戦します。

その欧州代表から、国別で最も多く選手が選出されているのがスペインです。

選手たちは2023年秋、68年ぶりにスペインを欧州選手権優勝に導いた主な戦力。

現地でプレー経験のある筆者が、スペイン野球の歴史と、選手たちの特徴を紹介します。

スペイン野球の歴史

プロ・アマチュア契約両方を含む、スペイン国内の野球を統括する王立スペイン野球・ソフトボール連盟(RFE)が創設されたのは、1944年3月のこと。

同国における野球の歴史は古く、バルセロナを首都とするスペインのカタルーニャ州の野球・ソフトボール協会には、野球の公式戦が初めてカタルーニャで行われたのが1901年2月3日だった、というデータが残っています。

カタルーニャの協会が作られたのは1923年のこと。

スペイン野球協会(RFE)より19年前に、カタルーニャの協会が発足したのです。

1945年から国全体のリーグ運営ができるようになり、当時は現在とは異なりリーグ戦ではなく国全体の選手権(カンペオナート・デ・エスパーニャ※国内リーグ再編のため1985年に廃止)というシステムでした。

カンペオナート・デ・エスパーニャ初代優勝クラブは、サッカーでお馴染みのレアルマドリード。

当時は野球クラブも所有していました。

翌年と翌々年の王者は、同じくサッカーでも有名なFCバルセロナで2連覇を果たしました。

こちらも、最近までは野球部門を所有していたのです。

再編後の現在と同じシステムのリーグ戦(ディビシオン・デ・オノール)初代王者はFCバルセロナ。

またレギュラーシーズンの他に国王杯(コパ・デル・レイ)が1944年からあり、初代王者はR.C.Dエスパニョールです。

現在、その国王杯の出場権は前年のレギュラーシーズン上位4チームに与えられています。

スペインの国内リーグにおける外国人枠

続いて、スペイン国内リーグにおける外国人枠の規定についてです。

現在のリーグ戦のシステムでは、一番トップのリーグはリーガエスパニョーラ・ディビジョン・デ・オノールです。

このリーグでは規定が改正され、2018年以降は長期滞在者の身分証である「NIE」を持っていない外国人選手はプレーできません。

その下のリーグは州の連盟ごとに下部リーグのシステムが異なりますが、各州のリーグでシーズン優勝を決めた後、秋に下部リーグの全国王者を決める選手権があります。

これは国内選手権に近いシステムです。

ここで好成績を残したクラブチームは、施設面などの条件もありますが、リーガエスパニョーラ・ディビジョン・デ・オノール昇格に繋がります。

スペインは、何世紀にも渡り長期的な中南米統治していた関係があるアメリカ大陸との結びつきが強く、その名残からか大西洋を跨いだ親戚付き合いが国関係から個々の血縁関係者に至るまで今でも続いています。

そのため外国人選手となると、政情不安の都合等もあるため選手以外でも家族全員一家転住し、国外脱出してきたベネズエラからの選手を筆頭にスペイン語圏の中南米系の選手が多いです。

ですが国の法律上、スペイン語圏からの移住者は滞在1年が過ぎるとスペインのパスポートを所持できる資格を得るため、実質外国人選手となるとアジア圏からの選手のみになります。

欧州代表に選ばれたスペインからの選手

今回スペインから、欧州代表に選出された選手たちを見ていきます。

筆者は今回、スペイン野球・ソフトボール協会の審判部のAdolf Garciaさんに話を聞き選手の評価を聞きました。

スペイン野球協会の協会審判部のアドルフ・ガルシアさん(中央) 写真左は元マリナーズの故グレッグ・ハルマンさん

フェルナンド・バエズ(Fernando Baez

ドミニカ共和国とスペインの二重国籍。

セリエAにて5年間プレーしているリリーフ投手。

球威のあるまっすぐにスライダーやチェンジアップを交え打者を翻弄し、シーズン中や代表でも主にリリーフ投手として使われ、東京五輪予選でもリリーフとして登板していました。

東京五輪予選の対イタリア戦で、試合終了後に乱闘騒ぎが起きた試合の最後を投げていたのもこの投手です。

昨季の成績

所属チーム:セリエA-San Marino Baseball

19試合 2勝3敗3セーブ 防御率2.27 被打率.13131.2イニング 49奪三振 11四死球 whip1.68 奪三振率13.93 K/BB4.45

ダニエル・アルバレス(Daniel Alvarez

ベネズエラとスペインの二重国籍。

かつてヤンキース傘下3Aやジャイアンツ傘下3Aでの経験がある中継ぎ投手。

欧州選手権で登板した3試合いずれも無失点に抑え、スペイン代表の優勝に大きく貢献しました。

威力のあるストレートと大きく曲がるスライダーが持ち味です。

クルーズやバエズと共に、スペインの欧州選手権優勝の原動力に貢献。

昨季の成績

所属チーム:VEWL-Navegantes del Magallanes

10試合3先発 0勝0敗 防御率4.669.2イニング 9奪三振 3四死球 whip1.345 K/BB3.00

捕手

ガブリエル・リノ(Gabriel Lino)

ベネズエラとスペインの二重国籍。

元オリオールズのプロスペクト捕手にして、スペインの正捕手。

マイナー時代から強肩とパワーが評価されており、20-80スケールではいずれも60を上回る評価をされていました。

欧州選手権では5試合にスタメンマスクとして出場。攻守でチームを引っ張り、スペイン代表68年ぶりの優勝に大きく貢献しました。

昨季の成績

所属チーム:セリエA-San Marino

38試合 打率.430(107-46) 本塁打12 打点45 盗塁1三振22 四死球27 出塁率.551 長打率.850 OPS1.401 BB/K1.23

ワンダー・エンカルナシオン(Wander Encarnacion

ワンダー・エンカルナシオン選手

ドミニカ共和国とスペインの二重国籍。生まれはドミニカ共和国ですが、育ちはバルセロナ。

球歴やキャリアはほぼスペインスタートの実質カタルーニャ出身者。

2019年では筆者と元チームメイトだった選手で、野手の中では一番期待の大きく、もっとも注目してほしい選手です。

速球派の速いまっすぐには滅法強く、それでありながら変化球を右方向に引きつけて打つような器用さも兼ね備えています。

甘い球への打ち損じが少なく、広角に打球を飛ばすパワフルかつ柔らかなバッティングが武器。

欧州選手権では打率.550/2本塁打/11打点/OPS1.533の大暴れで大会MVPを受賞。

同様の活躍を日本の強力な投手陣相手に披露できるかに注目。

昨年まではスペイン、リーガエスパニョーラ・ディビジョン・デ・オノールのテネリフェに在籍し今季からはイタリア、セリエAのパルマに移籍。

昨季の成績

所属チーム:RFEBS-Tenerife Marlins

29試合 打率.433(127-55) 本塁打10 33打点 盗塁3 8三振 15四死球 出塁率.497 長打率.772 OPS1.269 BB/K1.88

エディソン・バレリオ(Edison Valerio)

ドミニカ共和国とスペインの二重国籍。

筆者と2017年、バルセロナで所属チームが同じで元チームメイト。

2016年はサンボイ、その後2018年から2020年まではバレンシア、2021年以降は国内の最強軍団のテネリフェとスペインの国内リーグを渡り歩いてきました。

またシーズンの成績もポジションは遊撃手で圧倒的成績をマーク。

昨年は首位打者&本塁打王の二冠を獲得。

欧州選手権ではリノやエンカルナシオンと共に打線の一角を担い、MVP級の成績を残しました。

今大会でも正遊撃手&クリーンナップとしての活躍が見込まれます。

昨季の成績

所属チーム:RFEBS-Tenerife Marlins

27試合 打率.456(103-47) 本塁打12 37打点 1盗塁7三振 20四死球 出塁率.554 長打率.942 OPS1.496 K/BB2.86

外野手

ダニエル・ヒメネス(Daniel Jimenez)

ベネズエラとスペインの二重国籍。

守備型の外野手。

打高・メキシカンリーグで長打率が4割にも満たないシーズンが多く非常にパワーレスな選手ですが、欧州選手権準決勝オランダ戦の8回裏、ループストックの大飛球をホームランキャッチした様に高い守備能力を持っています。

昨季の成績

所属チーム:LMB-Tigres de Quintana Roo

54試合 打率.231(160-37) 1本塁打 15打点 2盗塁20三振 6四死球 出塁率.262 長打率.275 OPS.537BB/K0.30

エンヘル・ベルトレ(Engel Beltre)

ドミニカ共和国とスペインの二重国籍。

スペイン代表のセンターを務めるベテラン外野手。

スペイン代表の中ではおそらく一番キャリアのある選手。

北米、中南米のリーグを主戦場としている選手で2013年にはMLB:テキサスレンジャーズにてプレー。

その後はメキシコやドミニカ共和国などでプレーし昨年はベネズエラのサマーリーグに在籍。

走力こそ衰えたものの高い出塁能力とたまにでる一発でチームのリードオフマンを務めました。

昨季の成績

所属チーム:LMBP-Delfines de La Guaira

試合 打率.310(155-48) 3本塁打 打点18 盗塁228三振 8三振 出塁率.344 長打率.439 OPS.783K/BB0.286

スペイン野球界の課題

有望な選手が多いスペインの野球界ですが、課題もあります。

末端のユース世代に目を向けていると、州によって年間の試合消化数にバラつきがあるのです。

カタルーニャ州の子供たちは、最低50試合前後できる環境が整っているのに対し、他の自治体や州では同じ環境が整っていないのが現状。

子供たちがより多くの練習、試合等ができる環境づくりも大切です。

カタルーニャでは毎年、「カタルーニャベースボール&ソフトボールウィーク」を開催。

海外から34チームが参加する大会で、10月にはパーフェクト・ゲーム社主催の「パーフェクト・ゲーム・トーナメント」という大会も行われます。

ここには選手の視察のため、米国の大学や多くの機関からスカウトが派遣されてきます。

最近の4~5年では、協会所属の選手が5人ほどメジャーリーグのユースチームにスカウトされ、ロイヤルズ、カブスなどでプレーしているとのこと。

そうした環境づくりが、他の州でもできるようにするのがスペイン野球のユース世代における課題とも言えます。

上の世代、全体におけるスペインの一般層へのスペイン野球がメジャーになるため必要な要素は、目に見える形での「アイドルのビシビリティ(視認性)」ではないでしょうか。

欧州野球の枠組みの中で例えると、昨年春のWBC本戦に出場したチェコ代表の選手達。

スペイン国内で例えると、サッカーなら以前ならメッシ、今ならペドリになりたいと思う子供も。

日本であれば以前はイチロー氏、今なら大谷翔平に憧れる子供たちがいるでしょう。

その子供たちが野球の未来を作ることを考えると、目に見えるアイドルの存在が必要です。

スペイン野球の今後

以前から続いていた政情不安の都合上、国内を追われてスペインにやってきたベネズエラからの移民の選手が増え、今現在ではその本土生まれの移民二世選手等が続々と現れてきています。

そういった選手が増えると、元から住んでいた現地のスペイン人選手にも野球の技術向上に相乗効果をもたらしてくれています。

その効果もあり近年、代表チームでは2013年WBC予選で最終戦でイスラエルに競り勝ち本戦出場、2016年欧州選手権では決勝まで進出し準優勝、2023年の欧州選手権ではオランダ、チェコ、イギリス等のWBC本戦出場国を立て続けに圧勝して全勝優勝しました。

また2019年、2023年のU18ワールドカップでは欧州予選を突破し本戦出場。

特に2019年は1試合目で日本とスペインが対戦し、8回まで2-0で試合を進め、あわや番狂わせか?という試合をしたのは記憶に新しいことでしょう。

世代別からの土台が築かれつつある中で、今後は昨年ユーロの全勝優勝を契機に、その強さや層の厚さを今現在以上に底上げされ、近い将来はオランダと肩を並べられる又はとって代われる、WBC本戦でも上位を伺えるような国になれるような存在になれる事を期待したいと考えています。

筆者:岩本剛

大阪府泉大津市出身。

社会人野球の東京LBC、ゴールドジムBCを経て2012年以降は海外を渡り歩き、これまでアメリカのサマーリーグやオランダやスイス等の欧州のリーグを転々し、2017年から直近までスペイン国内リーグ、ベイスボル・バルセロナに所属。

コロナ禍を契機に一度は引退をしたものの、ベースボールユナイテッドで力投を見せていたバートロ・コローンの勇姿に惹かれ現役復帰を決意し、今現在、現役復帰へ向けてリハビリ中。

Text by 岩本 剛