「筋肉が薄くなる」場合も… 『バービー』目指す美容医療に 「やりすぎは危険」【専門家解説】

画像はイメージ(Flicker/ Elements Of This World

女性を中心に美容医療は身近なものとなっており、若い世代の写真加工や「映え」を意識したSNSの投稿が、それを後押ししています。

【動画】皮膚科医が「やりすぎ」に警鐘を鳴らす「barbie」botox

一口に美容医療と言っても、肌質を整えるレーザーなどの照射治療やシワを浅くする注射注入をする美容皮膚科治療から、顔や容姿を大きく変える美容外科手術まで幅広くあります。

時代と共に、簡単な施術なら、躊躇(ちゅうちょ)なく挑戦できるという人も増えてきました。

最近TikTokでは、バービー人形への憧れから生まれた『barbie botox』と呼ばれる美容注射治療が流行っています。

ですが、NewSphereの取材に答えた皮膚科医は、この美容注射治療を過度に行うリスクを訴えました。

『barbie botox』とは

『barbie botox』と呼ばれる動画がTikTok上で新たなトレンドになっており、ハッシュタグを添えて投稿された動画は1億回以上も再生されています。

これは首から肩、背中の上部にかけてつながっている「僧帽筋」という筋肉に、ボツリヌストキシン製剤を注射する治療です。

ボツリヌストキシン製剤注射(通称:ボトックス注射、以下同)は、神経筋伝達物質である「アセチルコリン」の再取り込み阻害により、注射した部位の筋肉の収縮を数ヶ月間弱める治療です。

眼科での斜視や眼瞼痙攣治療や、美容医療での表情ジワの治療として、筋肉の攣縮(れんしゅく)・拘縮・過緊張を和らげるための治療として、すでに確立しています。

ボトックスの作用機序を応用して、表情筋だけでなく、骨格筋にも治療することがあります。

たとえば過発達した僧帽筋の動きを弱め、休ませることで筋肉をゆるめ、、肩こりを軽減する「肩こりボトックス」などです。動かさない筋肉は小さくなり、これを「廃用性萎縮」といいます。

これを審美目的で行うと、バービーのような細長い首と華奢な肩のラインが得られることがあります。

映画「バービー」が海外でヒットしていることから、『barbie botox』と呼ばれ、トレンドと化しているのです。

ボトックスの効果が出るまでには個人差もありますが、動きを止めたり緩めたりする場合は数日で現れ、筋肉が小さくなるのには3~4週間程度かかり、それらの効果は3~5ヶ月持続します。

TikTokでは多くのインフルエンサーたちが、バービー人形になったかのようなビフォー・アフターを披露し、注目を集めるようになりました。

現役美容皮膚科医が警鐘を鳴らした「ボトックス注射のやりすぎ」

しかし、美容目的でボトックスを注射しすぎるのは危険だと、皮膚科医は警鐘を鳴らしています。

NewSphereは、銀座ケイスキンクリニック院長の慶田朋子医師に、『barbie botox』の危険性について解説してもらいました。

同クリニックでも、肩こりのほか、表情ジワやガミースマイル、エラ張りなどの改善目的にボトックス注射を行っています。

実際、同院を受診した患者に適応がある場合、正確に僧帽筋にボツリヌストキシン製剤を注射すると、慢性的な肩こりが改善するといった事例があるとのこと。

また、肩の筋肉が盛り上がっているため首が短く見える状態に対しても、1~2回行うと少し改善させることができるとも慶田医師は説明します。

ただし、ボトックス注射には注意点があると明かしました。

「患者に適応が無くても治療を勧める医師や、ボトックス注射の経験が浅く解剖の知識に乏しい医師が施術すると、『肩が動かしにくい』『腕が上がりにくい』『首がグラグラする』といった運動障害・機能障害を来す危険性があります」(以下「」内はすべて慶田医師)

慶田医師によると、他院で僧帽筋に対するボトックス治療を漫然と受け続け、筋肉がぺらぺらに薄くなってしまった症例もあるのだそう。

他にも、「表情ジワやエラ張りを改善する目的でボトックス注射を他院で受けて、『口元が歪んだ』『笑えない、喋りにくい』『ストローで液体を吸えない』『眼瞼下垂になった』『人相が変わった』『複視(物が二重に見える)が生じた』という事例もあります」。

上記のような症状が出た後、慶田医師のクリニックで「ボトックス修正注射」を受けに来院する患者が毎週数人いるのだと実情を明かしました。

では、実際どの程度ボトックス注射を受けると、「やりすぎ」となるのでしょうか。

慶田医師は筋肉量やボトックス剤の量など、あらゆる要素が絡んでくると説明します。

「ボトックス注射の『やりすぎ』に関しては、患者さんの筋肉量と筋肉の大きさ、医師側が注射するボツリヌストキシン製剤(ボトックス剤)の量と部位、深度、さらには繰り返す場合の頻度などで全く異なります。

1回でやりすぎになることもあれば、適切な間隔を空け、適切な治療を行えば、何年継続しても問題ないことも。そこが医師の技量であり、さじ加減なのです」

「ボトックス薬剤の効果は4ヶ月程度で消えていきますが、ボトックス注射の失敗事例は見た目に影響するため、その間、不眠症やうつ状態に悩む方も実は多くいます」ともいう慶田医師。

慶田医師は、信頼できるクリニック選びや医師への相談が大事だと強調しました。

「ボトックス注射は気軽に受けられますが、料金の安さやSNS集客の上手さだけで安易にクリニックを選ばないよう、注意するべきです。

『バービー人形』という、ナチュラルな人間からかけ離れたスタイルを目指せば、正常な筋肉や脂肪を萎縮させるしかありません。

肩こりなどの症状を伴い、明らかに過発達しているなら調整すべきですが、もしもアスリートであれば筋肉は資産ですから治療すべきではないのです。

美容医療は目的が審美であり、保険が適応されない自由診療ですが、医療行為です。

患者さんに害になる場合は治療をしないという正しい判断ができ、経験豊富で正確な注射を行うことのできる医師に相談すべきでしょう」

その上で慶田医師は、医師の選び方についても「目安がある」といいます。

「医師を選ぶ上で信頼できる一つの目安は、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医もしくは日本形成医学会認定形成外科専門医の資格取得の有無です。

骨格筋の肩こりボトックスに限って言えば、日本整形外科学会認定整形外科認定医取得の医師も筋肉の解剖学に詳しいはずです。

いずれも基礎領域の研修を大学病院や特定機能病院などで連続して60ヶ月以上フルタイム勤務で受けた医師が資格を取得できます。

美容医療は皮膚科学や形成外科学の礎の上にしか確立できない領域です。

2年間の初期研修後すぐに大手美容外科に就職し、学びのチャンスを捨てた自称美容外科医、自称美容皮膚科医が増えすぎており、その事故率の高さから美容医療業界の大きな問題になっています。

患者さん自身も、医師を選ぶ時の基準を厳しくしていただきたいと思います

昔に比べ費用も下がり、身近な存在となってきた美容注射治療や美容外科手術。

芸能人やインフルエンサー、周囲の友人を見ても、堂々と美容医療を受けたと公表する人も多くなってきました。

しかし施術後に後悔しても、後戻りはできません。

クリニックを安さや過大な宣伝文句で選ばないようにしたり、多くの実績を持つ信頼できる医師を頼ったり、施術前にきちんと下調べや副作用、リスクについて理解したりすることが大切だといえます。

銀座ケイスキンクリニック院長の慶田朋子医師

⚫️慶田朋子  

銀座ケイスキンクリニック院長 医学博士

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本レーザー医学会認定レーザー専門医

1999年、東京女子医科大学医学部卒業。

同大にて皮膚科助手、美容クリニック勤務などを経て、2011年に銀座ケイスキンクリニックを開設。

最新の医療機器と注入治療をオーダーメイドで組み合わせ、「切らない®ハッピーリバースエイジング」を叶える美容皮膚科医として多くの患者から厚い信頼を得ている。

学会や論文などで、新しい皮膚科学を常に学び続け、発信を続けている。著書に「女医が教える、やってはいけない美容法33」(小学館)など。

銀座ケイスキンクリニック
〒104-0061東京都中央区銀座1-3-3 G1ビル5F・6F
0120-282-764(びはだになるよ)
完全予約制。
診療時間:月~土11:00~19:00
休診日:日曜祝日
https://www.ks-skin.com

Text by 春野 なつ