超急速EV充電スタンド、欧州で400ヶ所 20年までに BMW、VWら連合

AP Photo / Ferdinand Ostrop

 電気自動車の充電を自宅から離れた場所で行うことは不安がつきまとう。レストエリアにある駐車場の裏手にたった一基しかない充電器を探し求め、ちゃんと動作してくれることを祈るのみだ。

 ヨーロッパでは、一部の大手自動車メーカーが高速道路上で急速充電ステーションのネットワークを構築し、バッテリーのみで動く自動車を運転する時に経験するそのような不安を解消し、電気自動車の販売促進に力を注いでいる。この構想の狙いは、ドライバーが何時間も待たずにわずか数分でバッテリーの充電を行うことができるようにし、ノルウェーから南イタリア、ポルトガルからポーランドまでであったとしても、目的地まで快適に向かえるようにすることである。

 フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーやフォードなどの自動車メーカーにとって、この構想は大きな賭けとなる。これら自動車メーカーが出資し、ミュンヘンを拠点として設立された合弁会社のイオニティは、来年、市場に投入される次世代型のバッテリーのみで駆動する電気自動車の販売開始に間に合わせるべく充電サービス提供を行うネットワークの構築を強力に推し進めている。イオニティは、自社独自の急速充電ネットワークを整備したテスラのせいで失ってしまった電動ラグジュアリーカーのマーケットシェア奪還を狙う。

 当初の予想よりも緩やかな滑り出しとなったにもかかわらず、イオニティのCEO、マイケル・ハジェシュ氏はAP通信のインタビューで、同社は2020年までに超急速充電ステーションを400ヶ所に設置し、それぞれに平均して6基の充電器を備え付ける、という目標の達成に自信がある、と語った。

 ハジェシュ氏は、1972年ミュンヘンオリンピックスタジアムの近くにあるイオニティの本社で「この構想は、ヨーロッパの国々を巡るような長距離ドライブをバッテリー駆動の電気自動車でも可能にし、どの顧客も快適で楽しいドライブ体験ができるようにそれぞれの充電ステーションで均質なサービスを提供することが目的だ」と語った。

 その考えには、一部の新しい物好きな人々向けのニッチ商品だった電気自動車をより広く一般の人たちに普及させたい、という願いが込められている。黎明期に電気自動車を手に入れた人たちは、自宅で一晩かけてゆっくりと充電を行い、短距離の通勤などに電気自動車を利用している。

「我々が探し求めているのは本当の一等地ばかりだ」とハジェシュ氏は言い、「アウトバーンに直に隣接する場所を探している。裏路地などではなく、5キロ先にある次の工業地帯の一画にある場所でもない。人の気配がなく、周りに商店などの施設の無い場所で充電ステーションを探そう、というのでもない。我々はまさにアウトバーンに面した場所を探している」と言葉を加えた。

「週末、友人宅へ訪問するためにハンブルグからミュンヘンに行くつもりならば、たいていの場合、時間に余裕がないはずだ」とハジェシュ氏は言う。そして、「だから、ここで重要になるのは、車の充電にかかる時間と、充電の待ち時間中にコーヒーを飲んだり新聞を買ったり、様々なことができる施設がそこにもある、ということだ」と同氏は語った。

 イオニティは4月17日、ドイツ西部のボンから50キロメートル(30マイル)南に下がったところにある小さな町、ニーダーツィッセン近くを走るA61ハイウェイ上のレストエリアに同社初の充電ステーションを開設した。充電ステーションでは、6基の急速充電器が「ウエルカムモード」で稼働中だ。「ウエルカムモード」は5月31日まで有効で、この期間中は無料で充電を行うことができる。その後については、イオニティは充電サービスに課金することを計画しており、再生可能資源から電力を得る方法を模索している。

 イオニティはおよそ300ヶ所の充電ステーションについて、ガソリンスタンドやレストエリアの土地所有者からの合意を得ながら開設の準備を進めている。充電ステーションは平均して120キロメートル(75マイル)おきに設置される予定だ。

 より多くの充電ステーションが利用できるようになれば、環境に優しい車を手に入れようとするレイナー・フート氏のような購買者が安心してバッテリーのみで動くクルマを選べるようになる。ベルリンで地理学の教鞭を執る58歳のフート氏は、内燃機関と一晩で満充電可能なバッテリーを組み合わせたプラグイン・ハイブリッド車、三菱アウトランダーの所有者であることを誇らしく思っている。フート氏は、バッテリーのみで航続可能な50キロメートル(30マイル)の範囲で、通勤など自宅を中心とする毎日の移動では、排出ガスを一切生成しないドライブを実現している。

 しかし、移動距離が200キロ(120マイル)を超えるドライブ、たとえば休暇中に家族でバルト海を目指す長距離旅行、となると話は別だ。

 フート氏が目的地に近づいた時、goingelectric.deのウェブサイトを利用してその周辺にある唯一の充電ステーションを探し出す前に、同氏はアウトランダーを内燃機関モードに切り替えて運転しなければならなかった。

 フート氏は、「充電ステーションはハイウェイのすぐ隣にたった一つだけあって、運のよいことに無料で充電することができた」と語った。しかし、海岸沿いの地域では、利用できる充電ステーションを見つけることができなかった。

 帰り道の途中、フート氏はレストエリアで充電を行うことはできたものの、たった一基しかない充電器のあるポール位置に駐車していた電気自動車ではないエンジン車の持ち主にその駐車場所を譲ってくれるよう依頼する必要があった。もしバッテリーのみで動く車だったら、どうしても帰宅することができなかったかもしれない。

 そしてフート氏は、650キロメートル(400マイル)離れたローゼンハイムにいる従兄弟を訪問した時には、充電ステーションをひとつも利用できなかった。

「選択肢についてあれこれ検討した。充電のインフラがまだ全然整っていない。私は途中で立ち往生するようなリスクを冒したくない」と同氏は言い、さらに、「充電のインフラが十分に整備されたなら、次に私が所有するのはバッテリーのみで動く車になるだろう」と語った。

 テスラは、充電インフラの整備が車の売上を促進することを証明した。テスラは、ヨーロッパ単独で1,229ヶ所の充電ステーションに9,623基の急速充電器を設置し、ラグジュアリーカー販売シェアの双璧をなすメルセデスとBMWの牙城を切り崩すことに成功した。しかし、テスラが採用しているのは独自規格の電源プラグである。イオニティは、欧州連合がすべての車に利用可能な標準規格として推奨するCCSプラグを採用している。

 この状況はアメリカでもヨーロッパでも、概ね似たようなものだ。カリフォルニア、ノルウェー、またはオランダなど、行政が電気自動車の普及を強力に推進している管轄区域内では、より多くの充電器が利用可能である。それ以外の地域では、たとえば郊外のハイウェイ沿いをかなりの長距離走り続けないと充電設備を見つけることは困難だ。

 フォルクスワーゲンは、低排出ガス車両開発への投資に合意し、課金を不当に逃れるためにディーゼルエンジン排出ガスを少なく見せかける偽装を行ったが、同社の子会社であるエレクトリファイ・アメリカは、2019年6月までにアメリカ国内のハイウェイ上300ヶ所へ充電ステーションを設置する予定だ。日産自動車によると、日本では40,000ヶ所の充電ポイントが既に存在し、ガソリンスタンドの件数である34,000を超えた、ということだが、その多くは個人のガレージに設置されたものだ。

 イオニティは、公的に利用できる充電器が大出力の350キロワットであることを売りにしており、この容量はテスラのスーパーチャージャー1台あたり120キロワットという出力のおよそ3倍に相当する。350キロワットの最大出力の恩恵を余すところなく受けられる電気自動車は、今のところ市場には登場していない。しかし、もう間もなくそんな車がリリースされる。ポルシェは、2019年に初の電気自動車であるミッションEの発売を計画している。ポルシェによると、車高の低い流線形のボディを身にまとったスポーツカーであるミッションEは、たった15分の充電で400キロメートル(250マイル)以上の走行が可能になる、とのことだ。

2019年に発売予定のポルシェの電気自動車、ミッションE(AP Photo / Jens Meyer)

「テスラとその創設者であるイーロン・マスク氏は、充電インフラを構築せず、ただ単に電気自動車を生産するだけでは不十分であることを証明した」とデュースブルク・エッセン大学の自動車研究所所長であるフェルディナント・ドゥーデンヘッファー氏は語る。

 そして同氏は「自動車メーカーの動きは遅きに失した感はあるものの、それでも以前よりは良くなってはいる。もしイーロン・マスク氏とテスラが存在しなかったならば、自動車メーカーは充電インフラの重要性に気付くことがなかっただろう」と言葉を結んだ。

By DAVID McHUGH, AP Business Writer
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Text by AP