幕を開けたポストOS時代 CES 2018で見えた「連携の中心」の交代

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 毎年年始にアメリカ・ラスベガスで開催される世界最大の家電見本市CES(Consumer Electronics Show)は、今年も1月9日から12日の日程で開催された。その年の家電製品のトレンド、ひいては近未来の生活を提案するCESにおいて、今年は家電メーカーではない企業が異彩を放っていた。その企業とは、検索エンジン大手のグーグルだ。

◆「連携の中心」の交代
 テック情報サイト『The Verge』によると、多くのCES参加企業がメイン会場にブースを設けるのに対して、グーグルはメイン会場の駐車場に3つの特設ブースを建設した。この特設ブースでは、ブース内に設置された照明、家電製品、さらにはテレビの遠隔操作が可能な「スマートホーム」のデモが体験できる。「スマートホーム」というアイデア自体は、IoT(Internet of Thing、モノのインターネット)の台頭とともに唱えられたものであり、真新しくはない。このアイデアが唱えられた当初は、スマホが連携の中心になると考えられていた。Googleの特設ブースでは、この「連携の中心」が決定的にアップデートされた。その中心とは、音声入力に対応したiPhoneのSiriのように動作するAIアシスタント機能「グーグルアシスタント」である。

 こうした連携の中心の交代は、一見すると些細なことのように見える。グーグルアシスタント自体はAndroidスマホから利用できるので、音声入力というスマホの新たな機能が利用されているに過ぎない、と思われるからだ。だが、グーグルアシスタントはスマホ以外にも実装できる。そして、現在同社がもっとも注力している家電製品は、最近CMでよく見かけるグーグルアシスタントを実装したグーグルホームである。こうした動向から、AIアシスタントをスマホの機能のひとつではなく、新たな「生活の中心」に据えようとしている同社の意図が感じ取れる。

◆ AIアシスタントは「ポストOS」の旗手
 コンピューターワールド誌(電子版)は、以上のようなグーグルのAIアシスタント戦略を「ポストOS時代へようこそ」というタイトルの記事で論評している。同記事によれば、AIアシスタントの台頭は、iOSとAndroidという既存のスマホを中心としたデジタル・エコシステムのなかでのできごとではない。むしろ既存エコシステムの外部で起こり、新たなエコシステムの誕生を予感させるものなのだ。CESの同社特設ブームに見られた「連携の中心」の交代は、デジタル・エコシステムの刷新をも含意している、というわけなのである。

 この新たなエコシステムをめぐって同社が戦う相手は、OSを握っているマイクロソフトあるいはアップルではなく、「アマゾンエコー」を発売してAIアシスタント市場で先行しているアマゾンである。2017年の年末商戦で最も売れたAIアシスタントは「エコードット」だったとAmazonが発表したように、同市場ではグーグルは挑戦者である。しかし、Gmailやグーグルカレンダーといった同社の既存資産を生かして、今後アマゾンと雌雄を決する戦いを繰り広げることになるだろう。

◆ 広がりを見せる覇権争い
 AIアシスタント市場をめぐるグーグルとアマゾンの覇権争いは、家電市場だけではなく自動車市場にまでに広がっていることをカナダのナショナル・ポスト紙は報じている。まだ自動運転が実装されていない自動車において、AIアシスタントは運転の邪魔をしないサービスとして注目されているのだ。実際、アマゾンは同社が開発している音声アシスタント「アレクサ」をトヨタの車種に搭載すると発表した一方で、グーグルもまた韓国の起亜自動車とイタリアのフィアットにAIアシスタントを導入したと述べている。

 もっとも多くのメーカーは、AIアシスタント市場においてどの陣営に与するべきか、まだ様子をうかがっているようだ。韓国家電メーカーLGのアメリカ・マーケティング部門ヴァイス・プレジデントのデイヴィッド・ヴァンダーウォール氏の発言が、大多数のメーカーの思惑を代弁している。同氏は、「5年前、スマートホームに関して起こるであろうことを予測できた人は誰もいませんでした。今から5年後のことだって誰にもわかりません。だからあらゆるパートナーとプラットフォームにオープンでいることが、うまくいく方法とみて間違いないのです」と述べている(ナショナル・ポスト)。

Text by 吉本 幸記