習近平主席に拍手を送るアプリが中国でリリース 政府におもねるハイテク企業

Ng Han Guan / AP Photo

 中国の人気メッセージングアプリ「WeChat」を運営する騰訊(テンセント)社が、習近平国家主席に拍手を送ることを国民に奨励するモバイルゲームをリリースした。

◆「素晴らしき演説~習近平に拍手!」
 5年に1度開催される第19回中国共産党大会で、習主席は、今後18年以内に完全な「社会主義的近代化」を達成するための戦略的ビジョンを明示した。

 その歴史的スピーチを称えるべく、「素晴らしき演説~習近平に拍手!」を騰訊社が公開した。ゲームは習主席の演説動画から始まる。人民大会堂で聴衆の前に立っている習主席のイメージ画像を背景に、19秒の間に拍手ボタンをできるだけ多く連打し、割れんばかりの拍手の音を聞くといった内容である(英ギズモード)。

◆中国政府の支配が続くハイテク産業
 英ギズモードによれば、最近中国政府は国内IT企業に対する影響力を強めている。例えば、中国政府は騰訊社や百度(バイドゥ)、微博(ウェイボー)に対し禁止されたコンテンツを掲載したとして罰金を科した。また政府は先月、アリババ社、微博社、騰訊社といった国内大手のハイテク企業の株式を購入し、直接的な役割を果たす計画を発表している。

 そういったなか、数年間政府のコントロールから解放されて収益を上げた、いくつかのハイテク企業は政府懐柔策に乗り出している。騰訊は第19回中国共産党大会に備え、WeChatの特定の機能をブロックした。党大会の前夜に発表された変更内容は、写真、名前、個人情報を月末まで編集できないようにするというもの。反対派の支持を示す手段を遮断するためと考えられる(英ギズモード)。

◆最も忠実な国民はだれか
 米バイス・ニュースは、「中国政府は、Google検索やFacebook投稿、Youtubeの視聴は許可しないが、国民が演説にバーチャルで拍手を送りたければ新しいゲームがその欲求を満たしている」と表現している。

 リリースから2日の間に累積で11億の拍手を記録している。2日目の朝までに8億6000万回再生されていることから、多くの国民がゲームを目にしたもののまったく拍手していないようだと言う。

 また騰訊社は中国政府に比較的自由なデータアクセスを提供しているので、誰が熱狂的に拍手をしているのか、忠実な国民なのかを見ることができるかもしれないと締めくくっている。

◆崇拝者がつくられる習近平
 カナダのグローブ・アンド・メール紙は、「新しいアプリで、中国は指先が痛くなるまで習主席に拍手する」というタイトルの記事を公開し、いくつかのSNSへの書き込みを紹介している。

「習主席のために、私は狂った人のように拍手をするだろう。我らが習近平は世界で最もハンサムな男です」

「私の腕が痛むまで、私は習パパ、習おじのために拍手をしていきます。パパのために拍手をすると、私の魂が昇華したかのように感じられる」

 現在中国では、党のアピールや習主席のイメージアップのためにドラマティックなドキュメンタリーや気軽なアニメなどが作られている。そこでは習主席が、中国を偉大なものに戻してくれる逞しいリーダーとして、かつ人間味溢れる人物として描かれている。

◆毛沢東の再来か
 最近の報告によると、党に協力した騰訊社の給与計算には7,000人以上の党員が含まれているという(グローブ・アンド・メール紙)。

「中国のメディアでは、商業団体と政治団体を区別するのが本当に難しくなっている」と香港大学のジャーナリズム教授である傅景華氏は語る。

 中国版ツイッターの微博では、「中国のメディアが中央政府への忠誠心を表現している様子は、非常に恥ずかしい」というつぶやきが見られる。

 エンジニアであるヤン・カイウェン氏は、2回ゲームした中で、それぞれ正確に404回拍手をした。これは、中国のネット検閲を象徴する「404 Not Found」に基づいた数字である。彼は、アプリを「ひどい、悪趣味」「ただのカルトの道具だ」といい、「毛沢東のような指導者になるかもしれない」と心配している。

Text by 鳴海汐