世界の平均気温「史上最高」に 過去12万年で 米大計測

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 7月6日、地球の平均気温は非公式ながら過去最高に達した。記録的な気温を更新したこの3日間は注目すべき節目となり、ある著名な科学者によると12万年ぶりの高温となる可能性がある。

 一方で、この記録には科学的にもっともな疑問や注意点もあり、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は静観の構えを取っている。世界中の平均気温を反映させた17.23度という数字にそれほど暑さは感じないものの、全世界から関心が寄せられている。

 それでもやはり、日々刻まれる記録は、公式であるかどうかにかかわらず、さらに大きな問題の兆候を示すものであると科学者は指摘する。重要なのは数字の正確さではなく、何が原因で問題が引き起こされているのかである。

 インペリアル・カレッジ・ロンドンの気候科学者、フリーデリケ・オットー氏は「記録自体が注目されがちですが、本当に重要なこととの関連性を明確にする必要があります。数字が『公式』であるかどうかについてよりも、その数字が包含する影響の大きさと危険性、そして気候変動なくしては起こり得なかったという点が重要だと考えます」とメールで回答している。

 メイン大学の気候再解析ツールからのデータにより、7月6日に更新された地球上の平均気温が、4日と5日に連日記録された17.18度を上回ったことが示された。このツール「クライメート・リアライザー」は、衛星データやコンピューター・シミュレーションを用いて世界の状態を計測するものだ。保存されている44年分のデータによると、3日にこれまでで初めて17度を上回ったという。

 6日までの1週間は、同様の平均気温を示した。

 ドイツにあるポツダム気候影響研究所で所長を務めるヨハン・ロックストローム氏は、平均気温が17.23度を記録したことについて、この1万2千年間の平均よりも3.32度程度高い「極めて異常な数値」であると言い表す。さらに、この気温上昇により今後「洪水や干ばつ、熱波や暴風など、さらに過酷で極端な事象が引き起こされる可能性が高い」と指摘する。

 ペンシルベニア大学の気候科学者、マイケル・マン氏は「ここ2、3日から1週間にかけての気温が、これまでの12万年間で最も高かったというのは十分に信ぴょう性がある」と話す。同氏は、前の時代が終わって以来、地球は最も暖かい状態にあるという2021年の研究に触れ、12万年以上前の氷河時代にさかのぼっても地球がこれほど暖かい時代はなかったのではないかと推測する。

 テック企業「ストライプ(Stripe)」と気温監視団体「バークレー・アース(Berkely Earth)」の気候科学者であるジーク・ハウスファーザー氏によると、この12万年間で最も気温が高いとしても驚きはないという。しかし、樹木の年輪といった長期間にわたるプロキシを用いた計測は精密さに欠けると指摘する。

 7月1週目の平均気温には、43.3度を記録した中国・河北省のような危険を伴う猛暑に見舞われている地域と、南極のように非日常的な暖かさを経験している地域の両方が含まれる。南極大陸のほぼ全域における同週の気温は、例年の平均値を4.5度上回った。

 6日、アルジェリアの都市アドラルは酷暑に見舞われた。涼しくなるはずの夜間でさえ、気温が39.6度を下回ることはなかった。気候史学と気候学の研究者であるマキシミリアーノ・エレラ氏は「アフリカの夜間の最低気温としては過去最高だ」と話す。

 7月第1週は、ヨーロッパ全域でも気温が上昇した。ドイツ気象局(DWD)は9日の最高気温が37度に達すると予測し、保健省はリスクの高い人々に対する警告を発令した。

 通常よりも気温の低い地点も地球上にはわずかにあるものの、メイン大学による計測は平均値をとる。つまり、南北の極地域を含め、例年よりも並外れて高い気温を記録している地域もあれば、気温の低い地域もある。平均すると、1979~2000年の平均気温よりも1度程度暖かくなっており、19~20世紀の平均よりも高温になっている。

 さらに、地球の70%を覆う海がここ数ヶ月記録的な高温となっている。

 科学者は水温の上昇には2つの要因があるとし、化石燃料の燃焼で発生する温室効果ガスの排出が長期的に引き起こす温暖化と、太平洋の一部の水温を上昇させるエルニーニョ現象の自然発生を挙げる。この現象は世界各地の天候に影響を与え、すでに温暖化の進んだ地球がさらに少し暑くなるという。

 アメリカ海洋大気庁は6日、解析ツールを用いたメイン大学の調査結果について注意を喚起した。部分的にコンピューターの気候モデルから得られたデータを承認することはできず、観測の代用にはならないと釘を刺した。

 プリンストン大学の気候学者であるガブリエル・ベッキ氏は「科学者は日々の変動を把握しておらず、これまで特に深追いすることもなかった」と述べる。より重要なのは、数ヶ月、数年、なかでも数十年単位で示される地球規模のデータである。

 同氏は「フォード政権(1976年)以来、20世紀の平均気温を下回る年が1度もないという事実のほうが、問題への関連性がより高い」と指摘する。

 ペンシルベニア大学のアネンバーグ公共政策センターで所長を務めるキャスリーン・ホール・ジェイミソン氏は「日々の記録の即時性が重要である」として、「昨日が記録的に最も暑い日であったことを知ることで、その暑さによって昨日の行動がいかに制限されていたのかを関連づけることができます。これは月間もしくは年間データからは把握できないことです。私たちは、1時間ごとに1日ごとに世界を体験しているのであり、1ヶ月や1年の平均値をとっているわけではありません」と述べている。

 コロラド大学で環境問題を専門とするマックス・ボイコフ教授は「記録がいかに公式であるかについての議論よりも、地球の温暖化は進んでおり、人間にはその責任があるというメッセージを周知することのほうがはるかに重要だ」と語る。同氏は気候変動についてのメディア報道のあり方を追跡調査している。

 気候変動コミュニケーションの研究を行うジョージ・メイソン大学のエド・マイバッハ教授は「気候変動の話題がほんの短い間でも続くことはなく、議題として取り上げられる場合は常に、科学報告書や政治家の集会など人々の共感をあまり得られることのない抽象的なテーマに関連付けられている。暑さを実感したり、山火事の煙を吸い込んだり、アメリカ東部やカナダに住む私たちの多くがこの1ヶ月で経験してきたことは事実上の共有体験であり、世論を引き付けるのに役立つのではないだろうか」と述べている。

By SETH BORENSTEIN Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP