温暖化抑制、「1.5度」と「2度」の決定的な違い

(2021年 ロイター/Amanda Perobelli)

 英グラスゴーで開催されている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、各国の指導者が繰り返し強調しているのが「温暖化を摂氏1.5度以下に抑えることが必要」という点である。

 2015年のパリ協定では、各国が産業革命前を基準とする世界の平均気温の上昇幅を2度よりもかなり低く抑え、1.5度以下を目指すという目標を掲げた。

 科学者たちは、1.5度という閾値(いきち)を超えると、人間、野生生物、生態系が被る気候変動の影響ははるかに過酷なものになる懸念が生じると述べてきた。

 気温上昇を1.5度以下に抑えるためには、2030年までに世界全体での二酸化炭素排出量を2010年のレベルに比べてほぼ半減させ、2050年までに実質的にゼロにする必要がある。この野心的な取り組みを巡って、COP26では、集まった科学者、金融関係者、交渉担当者、環境保護活動家らが、どうやってこの目標を実現し、そのための資金を調達するかを議論しているところだ。

 しかし、気温の上昇が1.5度の場合と2度の場合とでは、どのような違いがあるのか。ロイターでは複数の科学者に説明を求めた。

<まず現状を知っておこう>

 すでに世界の気温は産業革命前の水準に比べ約1.1度上昇している。10年単位で見ると、過去40年間はいずれも、1850年以降のどの10年と比べても気温が高くなっていた。

「わずか数十年で世界の気温がこれほど上昇したことはない」と語るのは、ドイツ気候サービスセンターの気候学者ダニエラ・ヤコブ氏。「0.5度違えば、異常気象は大幅に増加する。より頻繁に、より激しくなり、期間も長くなる」

 今年に限っても、豪雨により中国と西欧諸国で洪水が発生し、数百人が犠牲になった。太平洋北西部は記録的な猛暑に襲われ、さらに数百人が命を落とした。グリーンランドでは氷床の大規模な融解が複数見られ、地中海地域やシベリアでは山火事が猛威を振るい、ブラジル各地では過去最悪の干ばつが生じた。

 イーストアングリア大学の気候学者レイチェル・ウォーレン氏は「気候変動はすでに世界中のあらゆる居住地域に影響を及ぼしている」と指摘した。

<猛暑、豪雨、干ばつ>

 産業革命前に比べて1.5度、さらにそれ以上に温暖化が進めば、こうした影響がさらに深刻になる。

 ETHチューリヒの気候科学者ソニア・セネビラトネ氏は「地球温暖化が進めば進むほど、極端な変化はますます大規模になる」と述べた。

 例えば、これまで以上に厳しい熱波が、さらに頻繁に発生するようになる。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、人類が気候に与える影響がなければ10年に1回発生するような猛暑事象は、気温上昇幅が1.5度の場合は10年に4.1回、2度の場合は5.6回に増大するという。

 仮に気温上昇幅が4度であれば、こうした事象は10年に9.4回起きる可能性がある。

 気温が上昇すれば、大気中により多くの水分を含むことができるようになり、これまで以上に激しい豪雨をもたらし、洪水のリスクが高まる。一方で、気温上昇は水分の蒸発量を増やし、さらに過酷な干ばつにつながる。

<氷、海洋、サンゴ礁>

 地球の中でも、海洋、そして凍結した地域にとっては、気温の上昇幅が1.5度か2度かの違いは死活的に重要だ。

 ペンシルベニア州立大学の気候学者マイケル・マン氏は「1.5度に抑えられれば、グリーンランドと南極地方西部の氷床のほとんどについて、崩壊を食い止められる可能性がかなりある」と述べた。

 これならば、21世紀末までの海面上昇を数フィート(1フィート=約30センチメートル)に抑えることにつながる。とはいえ、それでも大きな変化であり、海岸線は後退し、小さな島しょ国や沿岸部の都市は水浸しになりかねない。

 しかしマン氏によれば、気温の上昇幅が2度を突破すれば、氷床が崩壊し、海面上昇は最大10メートルに達する可能性があるという。ただし、どの程度のペースでそうした事態が生じるかは未知数だ。

 気温の上昇幅が1.5度の場合、サンゴ礁の少なくとも70%が破壊される。だが、上昇幅が2度であれば、99%以上が消失するだろう。そうなれば魚類の生息地が破壊され、サンゴ礁に食糧・生計を依存しているコミュニティーが崩壊する。

<食糧、森林、疾病>

 気温が2度上昇した場合、1.5度の場合に比べ、食糧生産への影響も増大する。

「世界の穀倉地帯の数カ所で同時に不作になったら、食糧価格が急騰し、世界の広い範囲で飢餓が生じる」と語るのは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの気候学者サイモン・ルイス氏。

 温暖化した世界では、マラリアやデング熱を媒介する蚊が今よりも広い範囲で見られるようになる可能性がある。だが上昇幅が1.5度の場合に比べ、2度上昇すれば、さらに多くの昆虫や動物が生息地の大部分を失い、森林火災のリスクも高まる。これもまた野生動物にとってはリスクになる。

<「臨界点」はいつ来るか>

 世界の気温が高まるにつれ、地球が「臨界点」を迎えるリスクは増大する。つまり、地球というシステムが不可逆的な、あるいは連鎖的な影響の引き金となる限界を超えてしまう瞬間だ。こうした臨界点に達するのがいつなのかは不透明だ。

 例えば、干ばつ、降雨の減少、森林伐採によるアマゾンの破壊が続くことにより、熱帯雨林のシステムが破綻し、二酸化炭素をそこに蓄えるよりも、大気中に放出するようになるかもしれない。北極圏の永久凍土が温められ、長年凍りついていたバイオマスが分解を始め、膨大な炭素が放出される可能性もある。

「化石燃料の燃焼による二酸化炭素の放出を続けることのリスクが非常に大きいのは、こうした臨界点の1つを踏み越えてしまう可能性が高まるからだ」とルイス氏は指摘した。

<上昇幅が2度を超えれば>

 これまでのところ、各国が国連の登録システムに提出した気候変動に関する公約が達成されても、気温の上昇幅は2.7度に達する見込みだ。国際エネルギー機関(IEA)は4日、COP26で発表された新たな公約が順守されれば、気温上昇は1.8度に抑えられる可能性があるとの見方を示した。ただし、この試算に異議を唱える専門家もいる。また、これらの公約が実際の行動に結びつくかどうかは予断を許さない。

 気温の上昇幅が2.7度になれば、熱帯及び亜熱帯の全域で、年間で複数の時期にわたって「生活が不可能な猛暑」がもたらされる。生物多様性は大幅に失われ、食糧安全保障は悪化し、大半の都市インフラでは対応できない異常気象が生じると科学者らは言う。

「気温上昇を3度以下に抑えられれば、文明として対応できる範囲に踏みとどまれる可能性がある。とはいえ、2.7度でも大変な困難を味わうことになるだろう」とマン氏は述べた。

[グラスゴー 12月7日 ロイター] – (Kate Abnett記者、翻訳:エァクレーレン)

Text by REUTERS