仏、メンタルヘルスセラピー助成へ 改めて重要視される心の健康
◆世界的なメンタルヘルス・クライシス
メンタルヘルスは、各国が向き合うべき世界的課題の一つだ。経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD)は、今年、OECD加盟国のメンタルヘルスシステム構築のための新たなベンチマークに関する報告書を発表した。報告書は、平均で2人に1人が、生涯のうち、なんらかの形でメンタルヘルスの問題に直面するとし、雇用や生産性の低下による経済コストはGDPの4%相当であると試算している。過去20年間、メンタルヘルスの課題を抱える人の割合は、OECD加盟国の平均は18%程度で推移していたが、パンデミック開始によりその数字はさらに悪化した。報告書内のデータによると、たとえば、オーストラリアでは、うつ、もしくはその症状を抱える人の割合は、パンデミック開始時の2020年初めには27.6%となり、前年の10.4%と比較して急増。米国も同様に6.6%から23.5%へと増加。フランスに関しては10.0%から19.9%、日本でも7.9%から17.3%と2倍以上に増えた。
報告書では、23の評価基準により、各国のメンタルヘルス対応状況を評価しているが、総合的に優れた対応がなされていると評価できるOECD加盟国は一つもないとの厳しい評価を下している。評価基準は、たとえば、優れたメンタルヘルスケアに容易にアクセスできるかといった軸に関して、人口1000人あたりにおけるメンタルヘルスケア従事者の数や、セラピーなどの健康保険対象可否などが設定されている。23の評価基準に関するデータ自体が存在していないといった初歩的な課題もありつつ、全体として各国対応強化が必要というのが見解だ。メンタルヘルスケアへのアクセスに関しては、ケアを必要としていた人の約7割が、アクセスの課題に直面したと報告している。
一方、メンタルへルスケアへの関心の高まりを受け、新たなビジネスも広がりつつある。米国では、昨年、メンタルヘルス関連のスタートアップに対するVC投資件数および額が過去最高となった。その件数は、2019年の107件から124件へと増加し、2020年の投資総額は15億ドルに達した。このトレンドは2021年も継続する見込みだ。米国には、企業の従業員にメンタルヘルスケアを提供するライラ・ヘルス(Lyra Health)や、メディテーションアプリのカーム(Calm)など、7つのユニコーン企業(評価額10億ドル以上の企業)が存在している。メンタルヘルスケアに関しては、公的支援のさらなる拡充が求められるとともに、こうした新たなスタートアップの展開にも期待がかかる。
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