医師が「美術鑑賞」を処方、心身の治療に カナダ、ベルギーで

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 ベルギーの首都ブリュッセル市は、ストレスや不安などに悩む市民に、医師が「無料美術館鑑賞」を処方する試みを始めることを決めた。これには、パンデミックによって低迷しがちなアートに光を当てるとともに、心身をともにケアする医療を目指す狙いが感じられる。

◆芸術は心身の健康に有益
 医師がアートを処方するという制度は、カナダのケベック州ではすでに2018年から開始されており、ブリュッセルのデルフィヌ・ウーバ副市長のアイデアもそれからヒントを得たものだ。「芸術は心身の健康に有益だ」と考えるウーバ副市長は、自らが理事を務めるブルーグマン病院の精神科と、文化担当市会議員として責任を負う市内5つの美術館を提携させ、まず試験的に数ヶ月間、美術館見学を治療に取り込むことを考えた。美術鑑賞を処方された患者は、付き添い人とともに無料で提携先美術館を見学できる。(レコー、9/1)

 ブリュッセル市の文化部門担当者は、この試験運用の成果が形になるには少なくとも半年かかると考えている。

◆ケベックでの成果は?
 先んじるカナダのケベック州では、カナダ・フランコフォニー医師会(MFdC)とモントリオール美術館の提携により、2018年11月1日から、同医師会メンバー医師が同美術館への訪問を処方できるようになった。

 最初の1年間に、美術館鑑賞セラピーでモントリオール美術館を訪れた患者は328人。大半は、心理的ストレスや職場の問題などメンタルヘルス問題を抱えるケースだったが、身体的問題を抱える患者もいた。寄せられたフィードバックは非常に肯定的で、同美術館のバスチアン氏は、「自分自身、それも自分の心身のために時間を使う外出を可能にするものだった」と要約する。(ラクチュアリテ誌、2019/11/23)

 処方では、患者1人につき、大人1人子供2人までの同伴者が認められる。バスチアン氏は、近しい人とともに訪れることでセラピー効果が高まると説明する。というのも、「美術作品はコミュニケーションや、感動の共有、時として薄れがちな関係性を再構築させるのに役立つもの」だからだ。(同上)

Text by 冠ゆき